キーエンスの付加価値創造戦略の肝

ちなみに、つい特注品ばかりを作ってしまう企業にありがちなのは、お客様に「うちの業界って特殊でね。だから、こんなことに困っているのはうちだけだと思うんだけど……」と言われたとき、「なるほど、確かに特殊ですよね」とお客様の言葉を真に受けて、本当に特殊な商品を作ってしまうことです。

「特注品=お客様のかゆい所に手が届く商品=お客様ニーズを叶える」と、一見、お客様の満足度を高めているように見えますが、特注品は他社への販売が難しく、生産数量も限定されてしまうために製造コストや管理コストがかさみ、価格が高くなってしまいます。

キーエンスでは汎用性のある機能か、他の機能で集約または分散できないかを考え、基幹となるニーズを重視し、できるだけ標準化を狙うことで商品のコストダウンを図ります。その結果、お客様にとっては、価格面、納期面、修理品の入手性などのメリットを享受できるようになります。

キーエンスではニーズから逆算して商品を作り、お客様に対する付加価値の提供と同時に、生産性と利益を上げることに成功しています。

それがキーエンスの付加価値創造戦略の肝になっているのです。

新商品の7割が世界初もしくは業界初

最後のキーワードは③「世界初・業界初の商品」です。

キーエンスでは、「顧客の潜在ニーズ」を探り出し、「まだつくられていない付加価値(新創造価値)」を備えた商品=「世界初・業界初の商品」を生み出しています。

驚くべきは、キーエンスの新商品の70%が世界初もしくは業界初であるということです。キーエンスにとって世界初・業界初は当たり前なのです。

今もなお、毎年、世界初・業界初の新商品を世に出し続けており、そこにすごみがあるのです。

世界初・業界初というと、今までにない特許技術を駆使したような難しい商品と思われるかもしれませんが、世界一、業界一といった性能面(技術面)で高性能を備えたものではありません。

お客様の使い方を知り尽くし、課題や問題点を深掘りすることで、今までになかった機能や仕様を実現し、未解決の課題を解決しているのです。

トップ技術を使うというよりは、アイデアや機能の組み合わせなどを駆使し、お客様のアプリケーションに対してのソリューションを提供しているということです。

顧客の潜在ニーズの中にある、まだ誰も叶えたことのないニーズを叶えるのが「世界初・業界初の商品」です。

まだ誰も叶えたことのない未知の顧客ニーズを満たす、他社でも自社でも実現したことがない商品であれば、それは世界初・業界初となります。

キーエンスは、お客様の潜在ニーズを知るため、この未知の部分にまで踏み込み、徹底的に探索します。

このような努力を続けているからこそ、キーエンスは常に、高付加価値の商品を生み出すことができるのです。