2022年6月の有価証券報告書によると、キーエンスの平均年収は2183万円だった。このため、入社2年目には年収1000万円を超えると言われている。キーエンス出身の戦略コンサルタントである田尻望さんは「営業や商品開発、マーケティングといった社内の構造がお客様に付加価値を提供するためになっており、社員全員が成果を上げられるようになっている」という――。(第3回/全3回)

※本稿は田尻望『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

キーエンスロゴ
写真=時事通信フォト
キーエンスのロゴマーク=2020年6月17日、大阪市東淀川区

組織の構造によって社員全員が成果を上げられる

キーエンスの社員は、入社2年で年収1000万円を超えると言われます(時期にもよりますが)。同社の社員たち全員に、その年収をもらうだけの能力やスキルがあるのかというと、私自身も所属していたからこそ言えるのですが、答えは「ノー」だと思います。

では、なぜキーエンスはそれだけの給与を支払う成果が出せるのか?

その答えが、この「構造が成果を創る」という考え方の中にあります。

つまり、営業の構造、商品企画・開発の構造、マーケティング・販売促進の構造、人事の構造など、キーエンス組織内における構造のすべてが、「お客様に付加価値を提供するための構造」になっており、社員の個人的な能力や努力だけではなく、構造によって社員全員が成果を上げられるようになっているのです。

キーエンスの本質を理解するためには、キーエンスが創業期から重要視してきた変わらない経営理論とぶれない構造構築について、その背景も含め、組織全体の構造を紐解くこと。それが実は最も重要なカギとなります。

マーケットイン型企業「キーエンス」の思考

キーエンスを読み解く3つのキーワードを解説していきましょう。

1.マーケットイン型

キーエンスでは、マーケットイン型の新商品企画がなされています。なぜお客様が買うのか? 本当にその商品・機能は使われるのか? 使われたら本当に役に立つ(困り事・課題を解決する)のか? どんな役に立つのか? について商品の開発前に突き詰めることが徹底されています。もしかすると、「自社でもそれはやっている」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、追求度が他社とは異なります。

2.高付加価値状態での商品の標準化

キーエンスでは、特注品ではなく「標準品」を作っています。にもかかわらず、作る前に現場に足を運んで直接お客様の潜在ニーズを見つけ出すという市場調査を行っています。この仕組みがあるため、最大公約数の仕様・機能を備えた高付加価値状態の標準品での対応を可能にしています。