2026年熊本地震後に「イオンモール熊本」で大規模な爆発事故が起き、客と従業員の約4500人が避難する一方、専門店の従業員7人が犠牲になった。東北大学特任教授で人事・経営コンサルタントの増沢隆太さんは「本当の意味での危機管理とは『危機は必ず起こるもの』として事前に設計できているかどうか。今回の事故ではそれができていなかったと考えられる」という――。
面会する会社幹部 一時避難も館内戻り犠牲に
写真=共同通信社
大竹玖瑠美さんの通夜に訪れ親族と面会する雑貨店の運営会社「ハビタ」幹部=2026年8月2日夜、熊本市

避難後、売上金を移すために館内へ

7月28日に発生した熊本地震に伴う「イオンモール熊本」での爆発事故は、テナント従業員など7人が亡くなるという、極めて痛ましい事態となりました。犠牲となった方々は、一度は屋外へ避難したものの、再び館内へ戻った際に爆発に巻き込まれたと報じられています。

中でも、雑貨店を運営するテナント企業「ハビタ」は、避難していた従業員2人に対し、売上金を金庫へ移すよう指示し、そのため館内へ戻らせたことを自ら認めました。

予見不可能な天災や巨大事故に直面した際、事前に想定できることと想定できないことがあります。しかし、危機管理において最も根幹にすえるべき論点は、「人は非常時には平常通りの合理的な判断ができない」という不可避な前提条件です。

危機管理の世界では、「正常化バイアス」という心理現象がよく知られています。これは、突然の災害や事故に直面した際、多くの人が「大したことはないだろう」「すぐ元に戻るはずだ」と状況を過小評価してしまう心理メカニズムです。このバイアスは個人の資質や注意力の問題ではなく、過度なストレスから精神を守ろうとする、人間に共通した心理傾向といえます。

「短時間なら大丈夫」という危険な判断

しかし企業などが危機対応を行うにあたって恐ろしいのは、平時に刷り込まれた感覚が非常時の緊急事態にもそのまま持ち込まれてしまうことです。売上を守る、現金を管理する、顧客対応を優先する――平時には当然の行動が、危機時にも無意識のうちに優先すべきとされてしまうことです。

今回のケースにおいても、一度は安全な場所へ避難できていたにもかかわらず、「売上金の回収」という通常業務の判断が介入したことで、人命保護よりも日常業務が優先されるという致命的な状況が生み出されてしまった可能性があります。

「短時間なら大丈夫だろう」「すぐ戻ってこられるはずだ」と甘い判断をしてしまう可能性は誰にでもあります。だからこそ危機管理においては、「人はだれしも正常化バイアスに陥る」という前提で制度や手順を設計しなければならないのです。

危機対応マニュアルとは、「平時ではない状態でいかに機能させられるか」という視点が欠かせません。

今回の事件を受け、テナント企業幹部は記者会見の場で、避難していた従業員へ売上金回収を指示したことを認めています。その際、「無理のない範囲で」といった趣旨の配慮の言葉もあったとされています。

しかし危機対応の現場において重要なのは、この一言が添えられていたかどうかではなく、その指示が極限状態の現場でどう受け止められるかを経営陣がどれほど正確に予見していたかです。