重要なのは伝え方でなく「どう伝わるか」

危機管理に限ったことではありませんが、コミュニケーションでは、「情報は伝わる過程で必ず変質する」ことを前提に考えます。本社から店長へ、店長からスタッフへという伝言の階層を経る過程で、「できれば」「無理のない範囲で」といった留保条件は消えやすくなります。

指示をする男性と指示を聞く若い女性
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その結果、「可能なら売上金を回収してほしい」というニュアンスを含んだ依頼が、現場には「戻って回収するように」という命令に変化して受け止められる危険があります。これは伝え方が悪かったという単純な話ではありません。

危機に直面した組織の中では、情報は短く、強く、単純化されて伝播する傾向があります。だからこそ危機時の意思決定や安全確保において、伝言に依存するのは危険なのです。

「どう伝えたか」ではなく、「どう伝わるか」。

ここまで設計して初めて、真の危機管理コミュニケーションと呼ぶことができます。伝言を介さずにアクションが取れるような、自動的に次のステップが決まっていることのメリットはこの点にあります。

混乱する現場においては、まっとうな意思疎通も成り立たなければ、状況判断を求める指示も届かないのが当然です。既存の報道を見る限り、そうした不全を想定した事前の対応策が十分にできていたとは言い難いです。今回の惨劇を、店長などの個人の判断ミスとして片付けることはできません。つまり、本質的に問われるのは経営陣の責任となります。

今こそ問われる真の経営能力

もし平時から「いかなる理由でも人命より売上を優先しない」という強い方針が徹底されていたなら、あるいは「一度避難したら理由を問わず絶対に戻ってはいけない」というルールを現場で浸透させていたなら、違う結果になっていた可能性は否定できません。

「危機は起こしてはならない」ではなく、「必ず発生する」のです。さらに、「その時、人は冷静な判断は到底できない」のです。この2つを前提に組織全体としての対応を設計することが、経営の責任なのです。ここでいう責任とは、安全配慮義務や使用者責任といった法的責任だけでなく、社会的信用やコーポレートブランドという、企業価値そのものが問われるものでしょう。

事故によって犠牲者を出してしまったテナント企業では、それまでウェブサイト等に経営トップの華々しい経歴なども掲載されていたようですが、事故後には見られなくなったと報じられています(週刊女性PRIME 2026年8月5日)。会社としても非常に厳しい状況で、正念場を迎えているかと思いますが、今ここでこそ本当の経営能力、危機対応能力が試されるフェーズだと思います。