イオンモールと専門店の間に食い違い?
爆発事故が起こったイオンモール側は7月29日の記者会見で、「館内へ戻ってよいとアナウンスした事実はない」と明確に説明し、一度屋外へ避難した人々に対して戻らないよう求めていたとしています。店舗側からはさまざまな証言がありますが、この説明が事実であるならば、施設運営者としての大型商業モールの基本方針は「人命最優先」で一貫していたと、現時点では考えられます。
その一方で、テナント企業側は売上金回収のため館内へ戻るよう指示したことを認めています。現時点で判明している事実だけを見ると、施設側とテナント企業との間で、危機対応の方針に食い違いが生じていた可能性があります。さらに、その指示はテナント企業内において、本来あるべき避難方針との整合性が十分に確保されなかったと考えざるを得ません。
災害などの有事において、組織ごとに異なる指揮命令系統が並立する「二重指揮系統」が起きた場合、現場の人間は混乱し、元来の上位指揮ではなく身近な情報や指示に流れることはきわめて自然です。ショッピングモールのように施設管理者とテナント企業という関係性が存在する環境において、この指揮系統の整理が平時から確認できていたのかは今後検証されなければなりません。
熊本県は10年前にも大地震を経験しています。だからこそ、このような複数階層で作られた組織で災害対応がどこまで具体的に設計され、検証されていたのかが改めて問われることになるでしょう。
危機はどう組織を作ってきたかを映し出す
今回の爆発事故は企業経営にも極めて大きな影響を及ぼすでしょう。しかし、その本質は事故そのものによる損害ではありません。組織の内外から寄せられる「この会社は本当に社員の命を最優先に考えていたのか」という信頼への問いです。
緊急時には人命を金銭的損失より優先するという姿勢を、経営陣としてどこまで徹底できていたのか。避難訓練も現場任せではなく、危機時に意思決定を担う経営陣や本社管理職まで含めて検証していたのか。組織は危機を現実のものとして想定し、判断を委ねない仕組みに変えられるのか、検証と見直しこそ、今後の最大の課題になります。
そのためには以下のような、具体的に組織的な対策を再構築する必要があるでしょう。
・危機時は現場責任を問わないことを制度化する
・施設管理者とテナントを含めた単一指揮系統を整備する
経営能力は災害が起きた時など、災害や事故といった危機が起こった際にその真の力量が試されます。平時から「人は必ず判断を誤る」という前提で組織を設計してきたか。そうしたリアリズムに裏付けられた経営思考が、真価を問われます。言葉だけの「社員第一」ではなく、危機こそが、経営者が日頃から何を優先して組織を作ってきたのかを、最も容赦なく映し出すのです。


