デジタル技術が管理職の役割にとって代わる日は来るのか。ジャーナリストの佐々木俊尚さんは「もしそれが実現しても、人は『完全な自由』を得ることはできないだろう。それは創業間もないグーグルの事例を見ても明らかだ」という――。

※本稿は、佐々木俊尚『Web3とメタバースは人間を自由にするか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

ロンドンのGoogleオフィスの入り口
写真=iStock.com/Alena Kravchenko
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「Web3」は巨大企業の独占支配を変えられるのか

大手IT企業による「支配と隷従」に対抗しようという動きが、二〇二〇年代になって活発になってきた。それが「Web3(ウェブ3)」と呼ばれるムーブメントである。ウェブ3はインターネットがふたたび「支配と隷従」へと回帰してきていることに対して、「自由」へと揺り戻そうという思想を持っている。

ウェブ3について、できるだけわかりやすく説明していこう。ウェブ3は、ビットコインで有名な技術、ブロックチェーンを中心に考えられている新たなインターネットである。

ブロックチェーンというのは、ごく単純化して説明すると、「あらゆる取引が記録されている台帳」である。そしてこの台帳は、GAFAMのようなビッグテックが独占所有しているのではない。ビッグテックのサーバーに保存されているのではない。そうではなく、インターネットで相互につながった無数のコンピューターに、同時に保存されている。

一台だけの台帳をこっそり改ざんしたとしても、他のコンピューターの記録と一致しなければ、その改ざんは許容されない。分散することによって、改ざんが非常に困難になり、それが台帳の情報が正しいことを担保しているのだ。

そもそも完全な「自由」はあり得るのか?

ブロックチェーンの台帳には、大きく言えば次の二つの特徴がある。

「台帳を独占管理している企業が存在しない」
「台帳の改ざんがほとんど不可能」

このブロックチェーンの分散のしくみを使えば、プラットフォームの支配から逃れられるのではないか、と多くの人が考えるようになった。そこでウェブ3というムーブメントが生まれてきたのである。

しかし、ここでひとつの問題が立ち上がる。そもそも完全な「自由」は持続可能なのだろうか、という話である。

会社組織の新たな考え方であるDAO(自律分散型組織)で検討してみよう。経営者や管理職がおらず、メンバーによって自主的に運営される。こういうやりかたはブロックチェーン以前から注目されており、「ホラクラシー」とか「ティール組織」などと呼ばれて、「未来の組織形態」だと注目されてきた。これにブロックチェーンでのルール保存を加えたのがDAOということになるのだろう。