「管理職は要らない」初期のグーグルの失敗例
まったく同じことを、アメリカ・シリコンバレーの伝説的な経営コーチであるウィリアム・キャンベルも語っている。キャンベルはグーグルの創業者たちやスティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、ジャック・ドーシー、シェリル・サンドバーグといった綺羅星のような経営者たちに相談役としてコーチしたことで知られている。
グーグルCEOだったエリック・シュミットらが書いた『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(ダイヤモンド社)という本では、こんなエピソードが紹介されている。
グーグルが、創業からまだわずか三年しか経っていなかった二〇〇一年のこと。すでに社員は数百人にまで大きくなっていた。
そこに途中入社してきたウェイン・ロージングという幹部が、グーグルの管理職の働きに不満を感じ、開発部門の管理職を全廃して、組織をフラットにしようという提案をする。創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、自分たちもきちんとした会社員の経験がなかったこともあって、大学のように緩やかな体制を好んでいた。
伝説のコーチが職場の様子を見て一言
ペイジとブリンがイメージしたのはこういう組織形態だった。優秀なエンジニアたちがプロジェクトに取り組み、そのプロジェクトが完了したら、次のプロジェクトを好きに選ぶ。経営陣がプロジェクトの進捗を知りたかったら、管理職など間にはさまないで直接エンジニアに尋ねればいい。
このイメージはまさに、ホラクラシーやティール組織として知られているのと同じものである。そしてフラット化計画は実行に移された。
そしてこのタイミングで、ウィリアム・キャンベルがグーグルにやってくる。キャンベルはオフィスに夕方ごろにふらりとやってきては、経営陣や社員たちが何をやっているのかをつぶさに観察しまくった。
そしてキャンベルは、ラリー・ペイジにこう言った。
「ここには管理職を置かないとダメだ」
ペイジは言葉につまった。せっかく管理職を全廃したばかりで、それに満足していたからだ。どのプロジェクトも着々と進んでいるのに、なぜ管理職を戻す必要があるのか? 議論したが、堂々めぐりになってしまって二人とも譲らない。そこでエンジニアに直接聞いてみようということになり、オフィスの廊下を歩いていたエンジニアのひとりにキャンベルが管理職がほしいか聞いてみた。答えはイエスだった。
理由を尋ねると、
「何かを学ばせてくれる人や、議論に決着をつけてくれる人が必要だから」