堀江さんが即答した「ちょうどいい会社規模」

能力の高さが均一な、少数精鋭のチームならこういうフラットな組織は成り立つ。実際、そうやってうまく行っているスタートアップはけっこうたくさんある。しかし社員が十人や二十人ぐらいのときなら大丈夫だが、百人を超えるような組織になってくると、能力にばらつきができてきて、メンバー個人個人の見ている方向もそれぞれ異なってきて、どうしても「管理」が必要になってくる。

昔、起業家の堀江ほりえ貴文たかふみさんに取材していたときに「会社規模がどのぐらいの時が楽しかったですか?」と尋ねてみたことがある。

「三十人ぐらいまでがいちばん楽しかったよ」

即答だった。そしてこう説明してくれた。「三十人ぐらいだと、同じ方向を全員で見て向かっていくことができる。『我らがチーム』って感じがある。でも百人を超えると、たとえば会社の文房具をちょろまかすヤツとか出てくるんだよね。会社をチームとしてじゃなく、給料をもらえる場としてしか見てないからそういうことができちゃう」

管理職を“悪”とするスタートアップは多いが…

「ダンバー数」という有名な数字がある。ヒトが安定的な社会関係を維持できるとされる人数の上限のことで、百人から二百人前後だとされている。ロビン・ダンバーというイギリスの人類学者が提唱したことから、ダンバー数と名づけられている。堀江さんの「百人を超えると」という感覚は、ダンバー数とも一致する。この数を超えると、そもそもフラットな組織というのは成立しにくくなるのではないだろうか。

ロニー・リーというペンシルベニア大学ウォートンスクールの経営学者が、「(フラットなスタートアップ企業の神話)」という論文を書いている。「米大学で意外な研究結果『スタートアップが失敗する原因は、組織にヒエラルキーがないことだ』」(クーリエ・ジャポンウェブ版、1月22日)という記事で、リーはこう語っている。

「“ヒエラルキー”や“管理職”という概念を嫌う起業家は多いですが、結局のところ管理職は絶対に必要です。起業家が考えるよりもずっと早い段階で組織構造について計画し、適切なヒエラルキーを設計しなくてはいけません」
「フラットな組織構造においては、初期段階では試行錯誤が可能になり、創造性をはぐくむことができます。一方、従業員間の調整がうまくできず、従業員の対立や離職が起こり、最終的に商業的な失敗に至る可能性もあります」