日本と同じく平和ボケは重症?

今年の2月27日、つまり、ロシアのウクライナ侵攻の3日後、ドイツのショルツ首相(SPD)は臨時国会を召集し、2023年には1000億ユーロ(約13兆円)を国防強化のために臨時に投入するとか、23年以降は一般の国防費をGDP比の2%台にのせるとか(現在は約1.5%)、歴史的ともいえる国防強化計画を発表した。

ベルリンで開催された週次閣議に出席したドイツのオラフ・ショルツ首相=2022年11月18日
写真=AFP/時事通信フォト
ベルリンで開催された週次閣議に出席したドイツのオラフ・ショルツ首相=2022年11月18日

それどころかベアボック外相(緑の党)に至っては、戦車やらミサイルなど重火器をウクライナに供与すると言ったので、皆がビックリ。戦後のドイツは平和主義を貫き、今では徴兵制も停止。特にSPDと緑の党は、戦争はもちろん、武器の輸出などにも反対で、国民も皆、それに満足していた。ポーランドがロシアの脅威を言おうものなら、「何を大袈裟な」と本気にしなかったのだから、要するに日本と同じく平和ボケが進んでいたわけだ。

だから国防費も、NATOからどんなにせっつかれようが、GDPの1.1~1.5%ぐらいをウロウロ。それが一転、よりによって緑の党の外相が「ウクライナの民主主義が踏みにじられているのを見過ごす訳にはいかない!」とタカ派に豹変ひょうへんしたのだから、それは皆が驚く。

「歴史的大転換」どころか国防費が下がっている

1000億ユーロの国防強化費の財源は、リントナー財相(自民党)によれば「特別財産」とか。「特別財産」とは何ぞやと思ったら、何のことはない新たな借金だ。リントナー財相は財政均衡を公約にしていたので、一般会計の収支に現れない借金ということで、特別財産という言葉が編み出された。ドイツ政府では、借金と財産が同義語になってしまった。

ところが、それから8カ月あまりが過ぎた今、来年度の予算には、ショルツ首相が自画自賛した「歴史的大転換」は見当たらない。今年503.3億ユーロだった国防費は、なぜか501億ユーロに下がっている。また、特別財産の1000億ユーロで購入するはずだった軍の装備も、急に尻すぼみになっている。それどころかその1000億ユーロ自体、まだ影も形もない。

ドイツ国防軍の装備はとてもお粗末で、すでに10年以上も前から問題になっていた。有事となれば、戦闘機は飛ばない、駆逐艦は出ない、戦車は走らない、弾丸はないという状態になるだろうと言われつつ、しかし、いっこうに改善されないまま今日まで来ている。飛ばないヘリコプターが多すぎて、演習の時にADAC(日本のJAFに相当する民間の自動車連盟)から借りたという不名誉な話もあるほどだ。

ADACのヘリは道路情報を流すため、あるいは事故現場に急行するため、ちゃんと空を飛んでいる。いずれにせよ、昨年まで16年も続いていたメルケル政権に、改善しようという意思が希薄だったことは確かだろう。