「“平和の利息”が使い切られた今、再軍備に取り掛かるべき」

現在のドイツ国防軍は自衛隊と同じく隊員を募集するが、なかなか集まらないため、保育所を完備するなどして“働きやすい職場”を心がけている。一方、近年のスキャンダルは、軍の中に蔓延はびこっているという「極右思想」。2020年、軍のエリートである特殊部隊(KSK)の一部解体の後、軍内部の諜報ちょうほうを担当しているMAD(軍事保安局)が、“極右の人間”を摘発するのに躍起になっている。21年には半年足らずで700件もの“容疑”が浮かび上がったというが、詳細はよくわからないというのが国民の正直な感想だ。

いずれにせよ、そうするうちに肝心の軍隊は、ますますボロになっていった。だから、ショルツ首相の軍隊強化案は間違っていない。間近でウクライナの戦争を見ながら、国民も当時、皆、そう思った。

この政府の動きを最大限に活用しようとしているのが、ドイツの安全保障関係者だ。特に、軍需産業のためのロビー活動に従事するGSP(安全保障協会)では、会長曰く、「十分あると思われていた“平和の利息”が使い切られた今、ドイツは再軍備に取り掛かるべき」なのである。軍隊の中で取り締まられている「極右」とは違い、GSPの面々は政治的にも強大な力を持っている。ただ、彼らがSPD率いる国防省を信用しているかというと、おそらくしていないだろう。

ドイツ政府の常套手段に日本も踊らされている

一方、9000kmも離れた日本でも、かねがね祖国の国防の不備を憂いていた一部の政治家や国防関係者が、ショルツ首相の心意気を見て張り切った。自衛隊が担う最小限の防衛でさえ憲法違反と責め立てる勢力が大手を振っている日本である。ドイツの決断はありがたく、「あのドイツでさえ安全保障の重要さに目覚めた。いざ、日本も!」と発奮した。

ただ、私は当初から、ドイツ政府の動きには懐疑的だった。彼らの大風呂敷は毎度のことで、メルケル前政権も、ここぞというところで派手に打ち上げ花火を上げて世界中の人々を感動させたが、たいていは尻すぼみだった。しかし、花火の美しい残像だけが見た人の脳裏に長く留まるのである。

さて、そうするうちに、やはり10月の終わりになって、「特別財産」で賄われる予定だったさまざまな軍事強化プロジェクトが大幅に縮小されたというニュースが伝わってきた。なぜ、こんなことになったかというと、国防省の立てた計画に「相当な欠陥」があることを会計監査院から指摘されたからだそうだ。インフレの影響や為替の変動、利子などの国債費も抜け落ちており、しかも予算を大幅にオーバーしていたというから、何だか素人臭い。