非常食、ラジオ、暖房器具の確保を呼びかけ

ドイツのブラックアウトに関しては、何を信じて良いかが分からない。電力・送電会社いわく、「広域停電の起こる可能性は少ないが、しかし、絶対にないとは言い切れない」。連邦カタストロフ防護局(Bundesamt für Katastrophenschutz)は、水や非常食の備蓄はもちろんのこと、電気がなくても機能するラジオ、暖房器具、照明などの用意を呼びかけ始めた。

リントナー財相は、「今年の秋冬に、国民がエネルギー危機のせいでお腹をすかせたり、凍えたりすることはない」と保証してくれたが、安心はできない。これは生存に必要な最小限の保証だし、ひょっとするとカラ約束になる可能性もある。

一方、州政府の政治家や、その下にいる自治体の首長らは、連邦の大臣よりも具体的な対策を練らなければならないこともあり、病院、警察、消防などとともに、大々的な準備に取りかかっている。対策は、短時間の停電と、72時間以上の停電の両方のケースに備えて立てられているという。

360万人都市がブラックアウトを覚悟する状況

ドイツで真冬に3日も停電すれば、水道は凍結するだろうし、室内まで零下になれば、水も飲めなくなる。つまり、命に関わる。だから、市民が暖を取れる避難所の設置を検討し始めた自治体もある。ちなみにベルリンは、市全体がブラックアウトになることを想定しているというが、360万人都市が暗闇に包まれた時、自治体に何ができるか? 遠大な課題である。

そうする間にインフレは進み、それどころか、電気代、ガス代がすでに払いきれないところまで上がっており(契約している電気会社にもよるが、2倍から10倍の値上げの予想)、来年はさらに上がる。このままでは深刻な不況に突入することが確実で、経済予測は他の国とは比較にならないほど真っ暗だ。

ついこの間まで、夏の日差しを浴びながら「どうにかなるさ」とのんきに構えていたドイツ国民だが、今、急に皆、青ざめている。しかも、生活苦の恐怖は貧しい人たちだけにのしかかっているのではなく、ごく普通の市民の中にも、家の家賃やローンが払えなくなるかもしれないといった危急の問題が出始めた。来年は光熱費も物価もさらに上がる予定だ。

ところが、その間、連邦政府は何をしていたか? 現在動いている3基の原発をいつ止めるかで、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)とリントナー財相(自民党)がエンドレスの論争を繰り広げていた。緑の党のハーベック氏は、このエネルギー危機の真っ最中に、何の支障もなく動いている原発を止めようとしていたのである!

ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相(=2022年10月24日、ベルリン)
写真=AFP/時事通信フォト
ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相(=2022年10月24日、ベルリン)