1基を抱えるバイエルン州首相は怒り心頭

バイエルン州のイザー2号に関しては、所有者であるプロイセン・エレクトラ(E.ONの子会社)よりも、バイエルン州のゼーダー州首相が怒っている。「ショルツ首相は、これで緑の党と自民党のけんかを収めたつもりかもしれないが、エネルギー不足の問題は一切解決していない!」というのが氏の主張だ。バイエルン州は、現在、ドイツの稼ぎ頭で、自動車やITといった名だたる企業が集中している。それもあり、バイエルン州首相はすでに春ごろより、一刻も早く新しい核燃料棒を注文するよう連邦政府をせっついていた。

しかし、緑の党は何もせず、時間切れになるのを待っているのではないかと言われていたが、案の定、今になってこのドタバタ劇。ゼーダー氏が怒るのも無理はない。ちなみに、電気・ガス不足は今冬だけでなく、来冬はさらにひどくなるかもしれないと言われている。

そうするうちにドイツの景気は日に日に落ち込み、今や大中小、多くの企業が経営存続を危ぶんでいる。すでに倒産してしまった企業もある。誰がどう考えても、ロシアのガスなしにドイツがこれまでと同じような経済水準を保てるはずがないのだ。

ドイツが工業国から脱落する日は近い

それなのに、ハーベック氏は、ドイツが工業国から脱落するための政策ばかりを打ち続けているように見える。例えば彼は、このエネルギー不足を乗り切るため、さらに急激に再エネ、特に風力電気を増やすつもりだ。ただし、今年の冬の役には立たないし、すでに3万本以上ある風車すら、実際問題として、今、全然役に立っていない。

一方、情けないのは野党だ。CDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)は原発容認を説いて、政権を批判してはいるが、思えば当時、2022年の脱原発を決めたのは彼らの党首、メルケル氏だった。そして、その時に連立していたのが、現在、与党の中でやはり原発容認組の自民党。何だか皆、すねに傷もつ面々と言えなくもない。

いずれにせよ、このままでは電気代の高騰は止まらず、供給の不安定も続くだろうから、産業はドイツから脱出し始めるだろう。第2次世界大戦中に立案されたドイツ占領政策「モーゲンソー・プラン」では、重工業を解体、あるいは破壊して、ドイツを農業と田園の国にする構想が練られたが、このままでは放っておいてもそうなるかもしれない。緑の党の理想の世界である。

ハーベック氏の前身は童話作家だ。彼の作品の中に、子供たちの冒険の話がある。その中に出てくる女の子は、夜の突然の停電で非日常を体験し、大いにエキサイティング!

ドイツは間違った人を経済・気候保護相にしてしまったのではないだろうか。

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