先進各国の中央銀行がインフレ退治に躍起となっている。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「米国では株・不動産価格が依然として最高値圏にある。日本のバブル経済とそっくりで、金融引き締めによる大暴落は避けられない」という――。

※本稿は、藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(=2022年7月27日、アメリカ・ワシントン)
写真=EPA/時事通信フォト
記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(=2022年7月27日、アメリカ・ワシントン)

今の米国はバブル経済時の日本にそっくり

今の米国のインフレを考える際、復習しておきたいことがあります。1985年から89年までの日本のバブル経済です。このときの復習は、極めて重要だと思っています。

米国の権威ある経済誌『The International Economy』にしばしば寄稿を依頼されるのですが、ここでも強調しておきました。

バブル経済時の日銀総裁・澄田智すみたさとし氏は「資産価格だけが急騰して消費者物価指数が上昇しなかったというのは日本では初めてだったし、世界でもほとんど例がなかった。したがって、日銀は消費者物価指数ばかりに気を取られて資産価格の急騰に目を向けなかった。それで引き締めが遅れた」との反省を『【真説】バブル 宴うたげはまだ、終わっていない』(日経BP社)の中で述べられています。

米国では今、バブルとはいかないまでも、資産価格の急騰が起きています。日本の1985年から89年のバブル経済では、日経平均が84年末の1万1542円から3万8915円まで値上がりしました。3万8915円は、今でも終値において史上最高値です。

1984年からの5年間で、株価は3倍半近くになったわけです。土地の価格に関しては、実勢を的確に反映した公式の数字は存在しないのですが、感覚的には10倍くらいになったと思っています。

資産価格の高騰を軽視した日銀の大失敗

当時のバブル経済は、まさに土地や株などの価格が急騰したがゆえに起こったわけです。

ところが、消費者物価指数は極めて低かったのです。今の日銀が目標としている2%よりもはるかに低かった。それでも経済は過熱したのです。「景気がよければ消費者物価指数は上昇する」との原則からも外れています。

ちなみに「インフレーション(インフレ)」や「デフレーション(デフレ)」というのは「フロー(流動性)」の話で、不動産や株の値上がりについては、インフレとはいいません。

資産インフレという言葉はありますが、中央銀行が行うインフレ率の計算において、土地や株の値段は直接関係ないのです。家の価格の上昇は「帰属家賃」という形で組み込まれはしますが、丸ごと影響するのではありません。

それがゆえに当時の日銀は、資産価格の高騰に注意を向けなかったのです。

これが大きな誤りで、とんでもないバブル経済を引き起こしてしまい、後に強烈な金融引き締めをしなくてはならなくなったのです。その結果が「失われた30年」だったのです。