最低賃金の引上げ幅が「過去最大」というが…
最低賃金の引き上げ幅が「過去最大」になったと大手メディアはそろって見出しに掲げた。岸田文雄首相に「忖度」したわけではないだろうが、首相が最重要課題だと言い続けてきた「賃上げ」で大きな成果を上げたと言わんばかりだ。だが、全国平均で31円という引き上げ幅は、首相が胸を張れるような水準なのだろうか。
そもそも過去最大と言っているのは「上げ幅」だ。930円だったものを961円にするというのだが、昨年も902円から28円上げて「過去最大」だった。ベースが高くなっていくのだから、同じ比率で引き上げても「上げ幅」は毎年最大が続いていく。
いやいや今年は引き上げ「率」も3.33%で、前年の3.10%より高かったので、大きな引き上げと言っても良いのではないか、という反論も聞こえそうだ。最低賃金の引き上げ率の目標を「3%」にしたのは安倍晋三内閣で、2016年以降、新型コロナウイルス蔓延で経済が大打撃を受けた2020年を除き、毎年3%を上回ってきた。3.33%という引き上げ率はこれまでよりは若干高めではあるものの、驚くほどの引き上げ率という程ではない。
物価の上昇を織り込むと、引き上げ率は0.83%でしかない
というのも昨年までとは経済情勢が一変、物価が大きく上昇しているからだ。今年6月の消費者物価指数は前年同月比2.4%上昇した。3カ月連続の2%超えである。では1年前はどうか。2021年6月の消費者物価指数は前年同月比0.5%のマイナス。しかもずっとマイナスが続いていた。
つまり、物価が下落していた昨年の28円の引き上げと、物価が上昇している今年の31円では、まったく意味が違う。単純に物価上昇率を加減して実質的な引き上げ率とすると昨年は3.6%、今年は0.83%ということになってしまう。ニュースを聞いた庶民の実感はこれに近い。「たった30円で過去最高って何だ」という声がネット上には溢れていた。