本書で、今回の米国のインフレは「通貨刷りすぎインフレ」と書きましたが、これは財政ファイナンスの結果です。「中央銀行による政府への信用供与」とも言えます。この結果、世の中に、お金がジャブジャブに供給されたのです。それでも、日銀に比べればFRBが供給したお金の量はたいしたことはありません(対GDP〈国内総生産〉比)。

ばらまけばばらまくほど、お金の価値が下がっていくのは当たり前の話です。それがインフレです。1万円札の価値が下がれば、1万円札で買えるモノやサービスの量が少なくなる(=モノやサービスの値段が上がる)ということです。

資産価格の高騰が深刻な問題を引き起こしている

資産価格の高騰が続いているのに、先ほど触れたFRBのウォラー理事以外に、この点に関してコメントをする専門家はいません。これは、バブル経済時の日銀と同じです。澄田元日銀総裁と同様、消費者物価指数にしか目が向いていないように思えます。

これだと引き締めの遅れる可能性が十分にあると思うのです。サマーズ元財務長官も、引き締めの遅れを何度も警告しています。

資産価格の高騰は、エコノミストたちが考えるより、よほど深刻な問題だと私は思っています。景気に与える資産効果が大きいのが一点。もう一つは、国民の生活に与える影響が消費者物価指数よりも格段に大きいのではないかと思うのです。

日本のバブル経済時、私は日銀でのヒアリングの際、「消費者物価指数が安定していても、土地の値段がたとえば2倍、3倍になると、都心に家を買えなくなり、我々サラリーマンの通勤時間はかなり長くなる。長距離通勤を強いられたらクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)は格段に落ちる。だから、中央銀行マンは資産価格に注意しなければいけない」とよく主張したものです。

家賃が上がり、インフレは収まらない

米国では家賃の高騰で、コロナ禍以降、郊外へ引っ越した人が増えました。土地の高騰に給料が追いつかず、とても家賃が払えないからです。でもコロナ禍が終わり、リモートワークが減ってくると、大きな問題になるだろうと私は思っています。

エコノミストは「給料が上がると個人消費が増え、景気回復の原動力になる」とよく言います。しかし、資産価格が上がったほうが、個人消費は増えるように私は思うのです。

土地や株は、給料としてもらったお金を貯めて買います。不動産の場合は、それを元手に銀行から借りるケースも多くあります。レバレッジ(てこの原理)が効く(=少額の元手で大きなお金を動かす)わけです。

ということは、保有する資産の価格が上昇すると、過去にもらった給料の価値がぐんと上昇するということです。全部ではないにしても、過去の給料のある程度の部分の価値(投資した分において)が上がるのですから、給料が上がるより、よほど消費行動に対する影響が大きいと私は思うのです。

消費者物価指数だけを見ても意味がない

リスクテイカー(投資においてリスクをとる人)は、あまり実質金利で投資判断をしないのですが、エコノミストはよく実質金利の話をします。