ただバブル経済時の日本と、今の米国とでは大きく違っている点があります。

それは為替です。当時、日本では強烈な円高が進んでいて資産インフレというインフレ要因を、円高というデフレ要因が相殺していたと前述しました。

しかし、現在の米国で、ドルは急騰しておらず、安定しているのです。要はデフレ要因を相殺するものが存在しないのです。ドル高というデフレ要因がない以上、資産インフレが消費者物価指数の急騰を強烈に促すことになるのではないかと私は思っています。

FRBは「インフレは一時的だ」と主張していたが…

現時点で、FRBは間違いだったと認めたのですが、最初のうちは「インフレは一時的だ」と主張していました。インフレの主因を供給制約のせいだと分析していたからです。「いろいろなところで、供給に目詰まりが起きている。その供給の目詰まりが取り除かれれば、インフレは終わる」と考えていたのです。

また人によっては、今ロシアがウクライナに侵攻しているからインフレになったと思い込んでいるようです。ロシアがウクライナに侵攻し、それによって原油価格が上がり、穀物の値段が上がり、穀物を餌にする家畜の肉の値段が上がったという理屈です。

また元米財務長官にして元ハーバード大学学長のローレンス・サマーズ氏はアレックス・ドマシュ氏(ハーバード大学)との共著論文の中で、「我々の研究では、もし今後、労働需要が大きく減じることがなければ、かなりの人手不足状態が続くという結論になる。このことは今後、労働市場からのインフレ圧力を無視してはならないことを意味する」(筆者訳)と述べています。

アトランタ連邦準備銀行が算出した賃金上昇率は、2022年2月には6.5%と1997年以降で最高になったそうです。その一方、消費者物価指数の上昇率は7.9%と40年ぶりの高水準となり、賃上げがインフレに追いついていないようです。

原因は「通貨の刷りすぎ」である

確かにこれらの要因の一つひとつが今のインフレの構成要因ではありますが、それ以上に、すでに述べた「通貨刷りすぎインフレ」が、今のインフレの最大の理由だという認識が重要だと思います。

日経新聞(2022年3月17日)の夕刊でも「商品価格の高騰がインフレを招いているわけではなく、状況をより悪くしているだけにすぎない」とSGHのマクロ・アドバイザーズ・チーフエコノミストのティム・デュイ氏が言っていますが、まさにその通りなのです。

この理解は重要です。この理解がないと、ロシアがウクライナから撤退したらインフレは収束するとか、コロナ禍が収束すればインフレは収束するなどと誤解してしまうからです。

当時の日本のバブルも、今の米国の不動産と株の価格の上昇も、「通貨の刷りすぎ」でお金がジャブジャブになったがゆえに起きているのです。過剰にばらまいたお金を回収しないことには、このインフレは収まらないでしょう。

その意味では、今回のインフレ退治はかなり大変なことになるだろうと思っています。

ドル紙幣印刷機のイメージ
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