「手は冷たい水で洗え」とハッパをかけるほど深刻なのに

現在の政府は、昨年12月に成立した社民党、緑の党、自民党の3党連立政権だ。首相はショルツ氏(社民党)で、エネルギー供給における首相に次ぐ最高責任者が、前述のハーベック経済・気候保護相。

国民に「手は冷たい水で洗え」とか、「シャワーの温度を下げろ」とハッパをかけていたハーベック氏だったが、9月末、原発の1基は予定通り年末に止め、残りの2基は電力が逼迫ひっぱくしたときの予備電源として4月まで待機させるとの方針を発表。しかも、原発を止める理由として、「稼働延長してもガスはわずか2%しか節約できないから」と言ったものだから、国民は怒った。「手を水で洗ったほうがガスの節約は多いのか⁈」と。

今年の4月、発電に使われたガスの割合は、昨年よりも増加したという。だからこそハーベック氏は国民に、「冬を越すためにガスも電気もできる限り節約を」とプレッシャーをかけていたというのに、こと脱原発に関しては、国民が窮乏しようが、経済が崩壊しようが、お構いなしだ。

実際には、3基の原発の稼働延長により、少なくとも1000万戸がブラックアウトの危機から解放され、また、電気代の値上げは確実に緩和されるというが、ハーベック氏はそれも無視。脱原発は緑の党の核心的主張であるため、そのイデオロギーが完全に優先されている。しかも、2045年までのカーボンニュートラルをうたいながら、CO2をふんだんに出す褐炭火力の再稼働を決定したのだから、論理破綻もいいところだ。

「脱原発か稼働延長か」政権内で主張が真っ二つに

当然、これに果敢に反発したのが、元々ハーベック氏とは犬猿の仲である自民党のリントナー党首。蛇足ながら、現在のドイツは連立政府内の対立が激しく、与野党の対立などどこかにすっ飛んでしまっている。いずれにせよ、リントナー氏は、「発電できるものは原発も火力もすべて動かすべき」で、「少なくとも現在動いている原発3基は24年まで動かす」と主張。また、EU諸国からも、「ドイツは隣国に連帯を要求するなら、まずは自国で可能なことはすべてやれ」という声が高くなっていた。

しかし、ハーベック氏も譲らず、結局、にっちもさっちもいかなくなり、10月17日、ショルツ首相が鶴の一声で、「原発3基は4月15日まで稼働延長」という方針を打ち出した。と同時に、「ただし、原発は4月15日で本当におしまい」「だから、新しい核燃料棒を注文することもない」と、潰れかかった緑の党の顔を立てた。

そして19日にはこれがすぐさま閣議で承認され、後は、原子力法の変更が国会でなされれば、3基の原発はめでたく4月15日まで動き続ける……と思いきや、にわかに黒雲が湧き始めた。新たな障害は、なんと、原発を所有している電力会社である。