脱原発の「先送り」を決めたドイツ

エネルギー不足の深刻化で、「年内の脱原発」を掲げるドイツ政府が方針転換を迫られている。

ドイチェ・ヴィレなど各メディアが伝えたところによると、9月27日にドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相は、年内に停止を予定する原子力発電所3基のうちの2基(イザール2号機とネッカーヴェストハイム2号機)について、運転を来年4月半ばまで延長する方向で調整を進めていると明らかにしたようだ。

会議の最後に行われたメセベルク宮殿の外での会見(左から)リントナー財務相、ショルツ首相、ロベルト・ハーベック経済・環境保護相=2022年08月31日
写真=ddpa/時事通信フォト
会議の最後に行われたメセベルク宮殿の外での会見。(左から)リントナー財務相、ショルツ首相、ロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相=2022年8月31日

ハーベック副首相は9月初め、2基の原発については、これを非常時の電源として待機させておく方針を示していた。つまり今冬のエネルギー不足が深刻化した場合にのみ、原発を稼働させるとして、年内の脱原発の方針との整合性をとろうとしていたわけだが、それに待ったをかけたのが、運営を担うエネルギー会社だった。

原発は、いわゆる「ベースロード電源」である。そのため安定した電力の供給が見込まれるが、一方で運転を機動的に停止・稼働できるものではない。そのような性格を持つ原発を、電力需要に応じて稼働させる「ピーク電源」のように扱うことは、本質的に不可能だ。エネルギー会社によるドイツ政府への反論は至極、妥当だった。

結局、ハーベック副首相はイザール2号機とネッカーヴェストハイム2号機について、来年4月半ばまで稼働を延長すると表明せざるをえなくなった。ハーベック副首相が所属する同盟90/緑の党(以下、緑の党)にとって、今年中の脱原発の実現はまさに悲願であったが、少なくともこれで年内の脱原発は不可能な情勢となった。

エネルギー危機で加速する物価高騰

その実、ドイツでは、原発の稼働延長に賛成する民意が盛り上がっていた。その最大の理由は、エネルギー危機を受けたインフレの加速にある。