基幹の自動車産業が悲鳴を上げている

エネルギー危機で苦境に立っているのは家計だけではない。企業もまた、エネルギー価格の高騰を受けて資金繰りに窮するようになっている。

ドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長が南ドイツ新聞によるインタビュー記事(9月27日付)の中で、ドイツの自動車産業の苦境を伝えているので、簡単に紹介したい。

インタビュー記事によると、VDAの会員企業のうちの10%はすでに資金繰りが悪化しており、うち3分の1が今後数カ月以内に資金ショートに陥る可能性があるという。またVDAの会員企業の半分がドイツ国内での設備投資を取り止め、5分の1以上の企業がコスト削減の観点から海外に生産拠点を移転する計画を進めているようだ。

EV(電気自動車)向けバッテリーのメガファクトリーの建設など、欧州連合(EU)が描くEV化を受けてドイツの自動車業界は好調なイメージを持たれがちである。とはいえ、ドイツの自動車産業はその実としてエネルギー危機に伴うコスト高の悪影響を強烈に受けており、経営難に陥っている企業も少なくないのである。

もちろん自動車産業のみならず、ドイツの企業全般がエネルギー危機の悪影響を受けている。ドイツ政府は9月29日、天然ガス価格に上限を設けることを主とする最大2000億ユーロ(24兆円規模)の総合対策を実施すると発表し、企業や家計のエネルギー負担額の軽減を目指すとしたが、こうした政策でエネルギー不足そのものは改善しない。

なおドイツ政府は、自国では天然ガス価格に上限を設けることにした半面で、EU全体で議論している輸入ガス価格に上限を設ける案については、オランダやデンマークとともに反対の立場を貫いている。川上と川下で議論は異なるとはいえ、こうしたドイツ政府のスタンスは、ドイツの自国優先的な考え方をよく表すものといえそうだ。

ドイツ国会議事堂
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危機的状況でも脱原発が優先される恐れ

ロシアのウクライナ侵攻以降、ドイツ政府の脱原発の方針は二転三転してきた。当初は原発の稼働延長はコストに見合わないとしておきながら、非常時の電源として待機させておくと方針を変え、結局は来年4月中旬まで稼働を延長するとした。

4月以降、ドイツ政府が本当に脱原発を実現するためには、エネルギー不足そのものが解消する必要がある。