「裏の国体」を支え続ける制度的基盤

戦前のハウスホーファー地政学への傾倒が破局を招いた経験から、日本では戦後長い間、地政学について語ることそのものが忌避される傾向が続いた。

篠田英朗『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所)
篠田英朗『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』(PHP研究所)

だが高坂正堯が1965年に発表した『海洋国家日本の構想』は、日本を海洋国家と定義するところから国家戦略を構築しようとしている点で、明らかにマッキンダー理論の系譜に属する世界観を持っていた。その後、倉前盛通『悪の論理』や岡崎久彦『戦略的思考とは何か』などが、マッキンダー理論の強い影響を受けた視座で国際政治を論じて、影響力を放った。

日米安保体制そのものが「裏の国体」の扱いを受けていた時代には、日米同盟をさらに裏から支える地政学理論が公に語られることは稀有なことであった。しかしそれでも、もし英米系の地政学理論に影響された洞察が正しければ、日本が日米同盟を外交の基軸と見なし、安全保障政策の根幹に位置付けていることは、極めて理にかなっている。その前提に基づいて、日米同盟は最大限の注意をもって運営されてきた。

日米同盟を裏付ける集団的自衛権は、地政学理論のように、「裏の国体」をさらに裏から支える制度的基盤であると言える。それは、日米同盟が重要視され続ける限り、日本の安全保障政策を支え続ける不可欠の制度的基盤である。

もし集団的自衛権が失われてしまえば、アメリカの世界的な規模の外交安全保障戦略が破綻する。そのとき、地政学理論に従って構築されている日本の外交安全保障政策の基盤も崩壊するのである。

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