「ランドパワー」対「シーパワー」という構図

マッキンダーは、大陸中央部の「ハートランド」を典型とする地域に存在するのが「陸上国家(ランド・パワー)」、これに対して大陸の外周部分を形成する国家を「海洋国家(シー・パワー)」と規定した。マッキンダーは、ハートランドの「陸上国家」は歴史法則的に拡張主義をとるという洞察を提示した。

ハルフォード・マッキンダーの地政学概念を示す図。(出典=Halford J. Mackinder, "The Geographical Pivot of History", Geographical Journal 23, no. 4 (April 1904)/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

そして「海洋国家」群は、「陸上国家」の拡張に対抗して抑え込む政策をとっていかざるをえない、という洞察も示した。これはロシアの膨張主義を、ほぼ歴史法則的に捉える視点につながる。

このような地理的制約を受けた二つの大きな勢力の間のせめぎ合いこそが、「グレート・ゲーム」を形成してきた。

ロシアの膨張主義に対抗する海洋国家群は、「インナー・クレセント(内側の反円弧)」及び「アウター・クレセント(外側の反円弧)」に存在する。イギリス、日本、米国、カナダ、オーストラリアなどで構成される海上交通路に開かれている地域である。

なおマッキンダーによれば、インド半島、朝鮮半島などの半島部分は、「橋頭堡」(Bridge Head)と呼ばれる重要地域である。海洋国家群は、橋頭堡と基地を押さえて、陸上国家群を牽制するため、半島周辺は激しいせめぎ合いが生まれる地域となる。

日露戦争にマッキンダーが見出したもの

日露戦争の最中に執筆された「歴史の地理的回転軸」論文は、日英同盟を携えてロシアの南下政策に対抗する大日本帝国が開始した日露戦争に、少なからぬ影響を受けている。

マッキンダーは、日露戦争に、イギリスとロシアという特定国の確執に還元されない世界的な規模の構造的な対立の図式を見た。それが大陸国家と海洋国家の対峙という彼の地政学理論を特徴付ける概念構成につながった。

換言するならば、日英同盟が安定した同盟であったとすると、それは日本とイギリスに共通の利益があったからである。その共通の利益とは、まさに大陸国家の拡張政策を封じ込めようとする同じ海洋国家としての共通の利益であった。

日英同盟が安定した重要性を持っているのであれば、マッキンダー理論の妥当性は現実的で正確な描写であると言えるだろう。あるいはマッキンダー理論が正しければ、日英同盟は安定した重要性を持つことになるだろう。

マッキンダー理論は、あまりにも有名になったために、それが持つ影響力が現実の正確な分析にあるのか、あるいは為政者の意識に対する影響力にあるのかは、もはや見分けがつかないほどだった。