眠らなくても筋肉は回復するが、大脳は回復しない

規則的な睡眠・覚醒リズムに加えて、食事を毎食(朝・昼・夕)しっかり摂ることが大事ですが、それ以上にほぼ定まった時刻に摂ることが1日を元気で過ごすためには大切です。平日、休日を問わず朝食は朝7時頃などに一定させ、夕食時刻が大きく(90分以上)ばらつかないよう注意しましょう。

「眠らなくても、安静を保っていれば筋肉の疲労は回復する」と先ほどお話ししましたが、大脳の疲労は横になって目を瞑って安静にしているだけでは回復せず、睡眠がないと回復できません。特にお子さんたちに知っておいてほしいのが、睡眠と脳の関係です。

眠りをおろそかにするのは、心と体の健康をおろそかにすることと同じで、それには脳の健康が肝心です。脳のメンテナンスは主に睡眠中に行われます。これまでの研究により、次のことがわかっています。

1 脳の神経細胞同士をつないでいるシナプスと呼ばれる部分の間に溜まったゴミ(残渣物)を取り除き、脳機能の低下を防ぐ
2 脳の活動に使用して減少した神経伝達物質(セロトニン・メラトニンなど)を補充する
3 神経活動に必要なエネルギー生産工場であるミトコンドリアを細胞内に戻して休養をとらせる、または再生して再びシナプスに戻す

「寝だめ」は現代人を苦しめる「社会的時差ぼけ」の始まり

脳内のゴミ(残渣物)をきれいにするには、主に睡眠中にリンパ液が流れて洗い流すとわかっています。睡眠は、脳をつくり、育て、傷んだ部位を修復するなどのメンテナンスを通して、脳機能を守り、維持し、さらに高めるのです。

「脳死」という言葉が示すように、脳の働きが完全に停止してしまうことは、多くの国ではヒトの死を意味します。脳は体のなかでももっとも重要な臓器であることに疑いはありません。また、深い眠りをしっかりと得るためには、質の良い眠りが必要になります。良質の睡眠とはただ十分な時間を確保すればいいのではなく、いくつかの大事な条件があるのです。

睡眠・覚醒のリズムを考えるとき、ヒトが地球上で生活していることを意識してみてください。地球上で生きているからこそ、暗くなったら眠り、明るくなったら活動します。さらにもう1つ大事なのは、ヒトが学校や会社などで、社会生活を営みながら生きていることです。

一般的な学校生活では、朝6時台の起床を求められるお子さんが多いでしょう。「暗くなったら眠り、明るくなったら目覚めて活動を始める」というヒトの本質的な生活リズムは通用せず、時間に追われて生活しなければならなくなりました。

居眠り
写真=iStock.com/GCShutter
※写真はイメージです

入眠が深夜になりやすい現代人は、平日の睡眠がどうしても不足しがちになり、休日には「寝だめ」と称して朝寝坊をし、なかには昼近くまで眠る人もめずらしくありません。この「寝だめ」が、実は若い世代を中心に多くの現代人を苦しめる「社会的時差ぼけ」の始まりなのです。朝型が求められる社会生活と現実の間に大きな時差を生じさせてしまうために起こる現代病です。