三角島行きの渡船で運命的な出会い

2015年1月、三宅は理想のレモン畑を探す旅に出た。下蒲刈島、上蒲刈島、豊島とよしま、大崎下島――。呉市本州側からとびしま海道に入り、柑橘かんきつ類の一大産地である島々をドライブした。前年まで大都会の上海で9年間過ごしていただけに、農業については手探り状態にあった。

大崎下島をドライブしていたとき、久比港で車を止めた。対岸にある三角島が視界に入り、地元農家から聞いていた「南向きの急斜面がある畑が最高」というアドバイスを思い出したのだ。あそこで新ブランドをつくれたら面白いかも!

久比港と三角島をつなぐフェリー
ナオライ提供
久比港と三角島をつなぐフェリー

早速、久比港から三角島行きの渡船に乗り込んだ。船長から話し掛けられた。

「何しに来とるんか?」
「レモン畑を探しているんです」
「ならうちに来るか?」

何と、船長は三角島にレモン畑を所有する農家でもあった。2人は偶然に驚き、電話番号を交換した。

5カ月後、船長から電話があった。「移住することになった。畑が空くけれども……」

三宅は運命的なものも感じずにはいられなかった。結局、船長からレモン畑を借りると同時に、三角島にナオライの本社を置くことを決めた。同年4月、ナオライを創業した。

手探りの無農薬栽培、枯れるレモン畑…

ナオライを創業したからには、オーガニックレモンバレー実現に向けて一歩を踏み出さなければならなかった。

広島は日本一のレモン産地とはいえ、有機栽培という点では立ち遅れている。オーガニックレモンは全体の10%にも満たない。大半のレモン畑で農薬・化学肥料が使われ、土壌や生態系の破壊にもつながっている。

ナオライにとってオーガニックレモンは親和性が高い。レモンは店頭に並ぶのではなくお酒に加工される。だから外見上ぴかぴかである必要はない。有機栽培であれば商品価値が高まり、ミカドレモンや浄酎のブランドに磨きがかかる。

言うは易く行うは難し。当初は苦難の連続だった。無農薬栽培となった途端にレモン畑は枯れていったのである。農業について素人同然の三宅には理由は分からず、焦りが募るばかりだった。

一体どうしたらいいものか……。

困り果てていると、久比の知人から貴重な情報を得られた。「オーガニックのことなら梶岡さんに頼ればいいんじゃないかな」。久比を舞台にして耕作放棄園の再生や柑橘園の無農薬化を探求している元研究者がいるというのだ。