「低温蒸留」で日本酒の長期熟成が可能に

発端は上海時代の気付きだった。デパートに置かれている日本酒は保存状態が悪く、とても高級酒として売れるような状態ではなかった。同じ醸造酒であっても長期熟成で価値が高まるワインとは違うのだ。

日本酒が劣化しやすい原因は水分比率の高さにあった。海外で勝負するためには鮮度が命の日本酒では不利ではないのか? 生のイチゴを世界中で売っているのと変わらないのではないか? 蒸留酒のウイスキーと同じように長期熟成に向いたお酒を造るべきではないのか? さまざまな疑問が湧いてきた。

ナオライ創業の翌年――2016年――三宅は画期的な技術に巡り合えた。専門家を訪ねたり文献を読んだりしているうちに、水分比率を低くしつつ日本酒の風味を損なわない「低温蒸留」という技術の存在を知ったのである。

その後、必死になって勉強すると同時に必要な機材を購入した。「本当に衝撃を受けました。これで長期熟成が可能になる。しかも副産物としてアミノ酸が生まれ、化粧品や食品に活用できる道も開けるのです」

開発スタートから3年後、「焼酎とどこが違うのか」といった異議申し立てを跳ね返して、低温蒸留技術で念願の特許を取得した。

ナオライが瀬戸内海の大崎下島・久比に持つ蒸留所
筆者提供
ナオライが瀬戸内海の大崎下島・久比に持つ蒸留所

日本酒の酒造は40年間で半減

三宅はそもそも物心付いたころから日本酒に興味を持ち、いつしか「衰退が続く日本酒業界を救いたい」と思うようになっていた。お酒にはあまり強くないというのに。

無理もない。親族が呉市で160年以上の歴史を持つ老舗酒蔵を営んでいることもあり、酒蔵関係者に囲まれながら育ったのだから。休廃業が相次ぐ日本酒業界の現状を目の当たりにして、他人事には思えなかった。

数字がすべてを物語る。日本酒の消費量がピークだった1975年には製造免許を持つ酒蔵は全国に3229場存在した。その後は毎年数十場のペースで休廃業が続き、40年後には半減している。