「それだけでは社会は変わらない」とダメ出し
SUSANOOで初めてナオライのピッチ(投資家相手のプレゼン)を行ったときのことについては今でも鮮明に覚えている。
「日本酒の地域ブランドを確立することで日本酒業界を救いたい。上海で長年日本酒販売を手掛けてきた経験を生かせると思います」
ここで主催者側を代表して厳しめのコメントをしたのがSUSANOOの立ち上げに関わった孫泰蔵だった。オンラインゲーム大手ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業などで知られる実業家であり、ソフトバンクグループ創業者である孫正義の弟でもある。
「ふーん……それだけでは社会は変わらない。君がやらなくてもJETROがやってくれるんじゃないかな」
JETROとは、経産省所管の独立行政法人「日本貿易振興機構」のことだ。大きな社会課題を解決するために自分にしかできないことを見つけ出さなければならない、と孫はアドバイスしていたのだ。
イノベーションの起爆剤は「第3の和酒」
当時、アメリカではライドシェア(相乗り)のウーバー・テクノロジーズや民泊仲介のエアビーアンドビーがすい星のごとく現れ、既存秩序をひっくり返すような存在に躍り出ていた。短期間で急成長し、社会構造を一変させるスタートアップのお手本だった。
だが、社会起業家が取り組むソーシャルエンタープライズ――あるいはソーシャルスタートアップ――は少し違う。誰かがやらなければいけないのにビジネスとして成立しにくい分野にあえて飛び込むのを本領にしている。そこで斬新なビジネスモデルを編み出し、社会課題を解決するわけだ。
代表的分野としては老人介護やホームレス支援などがあり、行政やNPO(民間非営利団体)に任せればいいのではないかという意見もある。しかし、現実には多くの問題が先送りされたままになっている。組織が硬直化していたり、昔ながらのやり方が漫然と続けられていたり、原因はさまざまだ。
では、三宅は社会起業家として何を目指しているのか。日本酒業界で新たなイノベーションを起こし、全国各地の酒蔵と共同で日本酒文化を未来へ引き継ぐというビジョンを思い描いている。
戦略商品となるのが2019年発売の浄酎だ。日本酒でもなく焼酎でもない「第3の和酒」と位置付けられている。米と米麹から造る米焼酎とは異なり、日本酒をさらに40℃以下の低温で浄留して香りや風味を凝縮した蒸留酒で、ウイスキーのように時間がたてばたつほど丸く深みが増すという。
一般的な日本酒のアルコール度数が15%前後であるのに対し、浄酎は41%と高く、オンザロックやソーダ割にして味わう。広島産のオーガニックレモンと掛け合わせたバージョンもある。2021年発売の「琥珀浄酎」だ。