この意思決定は、「同業他社との競合関係」で自社の力が強くなるだけでなく、「顧客との交渉力」も高めることが可能となります。定番寿司メニューの強化により、食する頻度の高いネタの鮮度や質が高まれば顧客満足度が上がり、顧客が競合他社に乗り換える可能性は低くなることから、リテンション(既存顧客維持)が可能となります。

このスシローの意思決定は、企業が市場において利潤を最大化するために、競争が激しい状態、つまり、儲かりにくい「完全競争」をできるだけ回避して、儲かりやすい「完全独占」の方向へと近づけていく戦略に当たります。

負ける「5つの条件」を把握し、勝つ方程式を作った

ここで言う完全競争とは、以下の5つの条件を満たす市場と捉えることができます。

①市場に無数の企業が存在し、いずれの企業も市場価格に影響を与えることができない
②新たに他の企業が当該市場に参入する際の障壁が存在せず、また、市場から撤退する障壁もない
③企業が提供する製品やサービスは差別化されておらず、同業他社と同質である
④製品やサービスを作るための経営資源(人・物・金・情報など)は、企業相互でコスト無く移動できる
⑤製品やサービスに関する情報は、顧客・同業他社間で完全なる共有が可能である

雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)
雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)

これら5つの条件を満たす完全競争では、企業は超過利潤を見込むことはできません。なぜなら、どの企業も同じ製品やサービスを生産し販売することになるため、製品特性で市場に参入できず、価格を下げざるを得ないからです。最終的には、企業がかろうじて事業を継続していくだけの利益しか上げられない水準まで市場価格は下がることになります。

このような状況を回避するために、企業は完全独占の状態を作り出すことを目的に、自社の競争戦略を策定するのです。完全独占は、完全競争の条件と正反対の立場を取ることから、企業は超過利潤を最大化することができます。

スシローは、定番寿司メニューの強化などさまざまな打ち手を繰り出すことで、周囲の競争環境を完全競争から引き離し、完全独占に近づけて収益力を高めることに成功したのです。

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