巧妙に本音をぼかした国会答弁

「安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる極めて重要な問題であり……男系継承が古来例外なく維持されてきた重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」(平成31年[2019年]3月13日、参院予算委員会での答弁

これは一見、「男系男子」固執派に寄り添った発言という印象を与える。しかし内実は、そのような印象を狙いながら、「男系男子」限定を“必ず維持する”という断定を巧みに回避し、フリーハンドの余地を広く残した、よく工夫された答弁になっている。

まず「重み“など”」という言い回しで、男系継承の重み“以外”にも考慮すべき材料があることを示唆し、しかも答弁全体の力点は、あくまでも後段の「慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」に集約され、男系の「重み」から一直線に結論に短絡“しない”ことが明言されている。

文脈上、「検討」の結果次第では、目的として明示された「安定的な皇位継承を維持する」ための現実的な方策が優先されることを含ませた言い方になっている(接続助詞の「ながら」では前段と後段は並行的な関係にとどまり、前段が後段を規定することはない)。

皇位安定継承の唯一の解

以上の安倍氏の発言をつなげると、皇位継承問題に対しておのずと一つの解答に導かれる。それは、安倍氏本人がかつて“凍結”したはずの小泉内閣の時に設けられた「皇室典範に関する有識者会議」の報告書の結論部分に書かれていた内容だ。

「非嫡系継承の否定、我が国の少子化といった状況の中で、古来続いてきた皇位の男系継承を安定的に維持することは極めて困難であり、皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要である」(報告書20ページ)

「男系男子」固執派のリーダーと見なされていた安倍氏だったが、旧宮家の当事者に皇籍取得への意思を持つ人が「いない」という現実に直面し、非嫡出子・非嫡系子孫の皇位継承可能性が排除された条件下では、「男系男子」限定への固執は皇室の行き詰まり以外の結果をもたらさないことに気づいたのだろう。

ちなみに、国民である旧宮家系男性だけが“特権的”に婚姻を介さずに皇籍を取得する制度は、憲法第14条第1項が禁じた「門地もんち(家柄、家格)による差別」にそのまま該当する。だから、万が一それを“希望する”当事者がいたとしても、結局は認められない。