相手の言語を重んじられるか
【増田】こうした方針を定めるのは政治家としてトップに立った人ですが、一方で、国民の中にも「自分たちの言語にこだわりたい」「国として公用語を定め、少数派の言語よりも優先して使うべきだ」と思う人たちがいる。私たちは「多様性が大事だ」「違いを認め合おう」と簡単に言ってしまいがちで、もちろんそれは大事なことなのですが、一方で実現するのは非常に難しいことでもある。だからこそ、世界各地で価値観を巡る運動やデモ、摩擦がニュースとして報じられるのです。
ただし、違う言語や文化、習俗や宗教を持つ「異文化」の人々と接することで生まれるものは、「摩擦」だけではありません。
ヨーロッパ取材では通訳を介して取材をするので、こちらは日本語で話すのですが、取材相手がジーっと私の様子を見ていることがあるんです。言葉が通じないから、表情から何かを読み取ろうとしているのかな、と最初は思ったのですが、聞いてみると実は「日本語の響きに耳を傾けていた」のです。時には「美しい響きですね、もっと日本語を話してください」と言われることもあります。
日本人同士ではなかなか気づきませんが、ヨーロッパの人たちにとって日本語の響きというのは自分たちの言語とはまた違った、「美しい響き」を持っているのだと気づかされました。
【池上】私も以前、テレビのロケでロシアに行った際に、日本語を学んでいるという女子学生にその理由を聞いたところ、「日本語の響きが美しいので、学ぼうと決めました」と言われたことがありました。
【増田】私たちの「美しい響き」を持つ言葉を大切に思うのと同じように、相手の言語についても重んじ、「その言語や文化を大事に思っている人たちがいる」と理解することこそが、多様性のある社会の実現につながっていくのではないでしょうか。
(構成=梶原麻衣子)