人の話を最後まで聞けない上司が多い

また、リーダーは部下の話がまだ終わっていないのに、部下の言葉の上に「まったくアグリーだね」「いいね、いいね」と自分の言葉をかぶせていますが、これもフラットな関係性が崩れてしまうきっかけをつくります。メンバーの発言にかぶせるように言うことで、リーダーが相手に対してマウントをとってしまうことにつながるからです。

ちなみに私は、企業の依頼を受けて職場の調査を行い、その結果を職場にフィードバックし、対話をうながすようなコンサルティング案件をときにお引き受けしています(最近は多忙でなかなか現場には出られませんが)。

そのような事案では、フィードバックされた調査結果をもとに、現場の社員と管理職が、ともに長時間労働などの働き方の問題について話し合い、職場の改善を目指すのですが、この「話し合い」に立ち会うたびに、「世の中では、本当に話し合いが成立しないんだな。みんな他人の話を最後まで聞けないんだな」と感じます。

ちなみにここに「悪意」があるかというと、そうではありません。上司はまったく悪意なく、会話の中で部下を「評価」したり、話をさえぎったりして、権力をつくりだしているのです。権力は「ある」のではなく、リーダーによって「つくられる」ものなのです。

ファイルを見ながら指示するシニア上司
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

「対話は大事ですよ。相手の話をよく聞きましょう」といくら事前に伝えても、話し合いがはじまった瞬間から、リーダーや管理職が、知らず知らずのうちに、マウントし、評価し、権力をつくりだしてしまいがちです。そして「持っていきたい結論」のほうに、知らず知らずのうちに話を誘導しようとするのです。

自分の権力や影響力を自覚しよう

対話においてフラットな関係性を保つためには、権力を持っている側が自分の権力や影響力について、十分に自覚していることが必要です。このことを専門用語で「自己を知ること(セルフアウェアネス:self-awareness)」といいます(※注1)

注1……ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳(2019)『セルフアウェアネス』ダイヤモンド社

リーダーシップの発揮にとっても、とにもかくにもセルフアウェアネスが重要だとされているのは、何の偶然でもありません(※注2)。「自己の影響力」を知らない人が、「他者に影響力を行使できる」わけがないのです。

注2……Sosik, J. J., & Megerian, L. E. (1999). Understanding leader emotional intelligence and performance: The role of self-other agreement on transformational leadership perceptions. Group & Organization Management, 24(3), 367-390.
Bratton, V. K., Dodd, N. G., & Brown, F. W. (2011). The impact of emotional intelligence on accuracy of self-awareness and leadership performance. Leadership & Organization Development Journal, 32(2), 127-149.

たとえ上司が「俺は大丈夫だよ」と思っていても、部下のほうが萎縮して影響力をもろに受けて、自分の思っていることが表明できないのであれば、それはフラットな関係とはいえません。