貧困を分析する指標として優れている「最低賃金」
貧困という観点からは、平均賃金よりも重要な指標が最低賃金です。それでは、日本の最低賃金は低いのでしょうか。図表5は、4カ国の2021年時点の最低賃金を示したものです。
結果は、4カ国のなかでは下から2番目となります。PPPドルで物価の違いを考慮した数値でみると、その高さは台湾、韓国、日本、香港の順であり、台湾や韓国のワーキング・プア率が低いことの一つの要因として、最低賃金の高さが考えられます。台湾の最低賃金は、週40時間働くと想定すると貧困線の1.74倍の所得を得ることができます(ただしこの貧困線は一人世帯を想定しています)。日本においても、この値は1.48倍であり、とくに低いわけではありませんが、日本は高齢化率も高いため、相対的貧困線が低めに推計されることが、この数値が比較的に高いことと関係しています。
注目したいのは、韓国、台湾、香港においては、貧困政策として最低賃金が積極的に引き上げられてきたことです。
30年で最賃が9倍の韓国、3倍の台湾に比べて日本は…
韓国は、1997年のアジア経済危機以降、最低賃金の引き上げを政策的におこなっており、2020年の最賃は1992年の最賃の9倍以上となっています。禹は、韓国の最賃の影響率(=最賃の改正によって賃金が上昇する労働者の割合)が2019年には25.0%と高いこと、また、最賃の引き上げと連動してその周辺の賃金も引き上がることを挙げ、「特に小規模事業所に働く組織化されていない労働者の賃上げを、最賃の引上げが下支えしている」と述べます(注)。
注:禹宗杬「韓国の賃金 現状と課題」『連合総研レポートDIO』No.370、8~13ページ
台湾においても、蔡英文氏が総統就任した2016年以降、最賃の引き上げを意図的におこなっており、1992年と比べると2020年の最賃は約3倍の値となっています。香港は、2011年に最賃制度が導入されたばかりですが、わずか10年の間に1.34倍の伸びを見せています(Minimum Wage Commissionb 2020)。
それらに比べ、日本の最低賃金(地域別最低賃金の全国加重平均額)は、1992年に比べて2020年値が1.6倍と約30年間の伸びとしてはごくわずかなものです。韓国においては、最低賃金の引き上げが賃金全体を押し上げるのに貢献したとのことですが、日本においては、最低賃金も平均賃金も低迷しています。