このように、日本の勤労世代の貧困率が韓国、台湾、香港よりも高く、高齢者の貧困率が低い理由の一つは、1980年代から2020年にかけて、日本における貧困層の年齢構造の転換があったからです。

勤労世代の貧困率は増加傾向

図表2は、日本における年齢2層別の貧困率の推移を1985年から2018年にかけて示したものです。とくに男性高齢者においては、貧困率が1985年の20.8%から減少し、2009年には15.0%となっています。女性高齢者の貧困率は、男性高齢者のような減少は見られないものの、それでも1980年代に比べ、2010年代は低い値となっています。

一方、勤労世代の貧困率は、高齢者の貧困率と反応するように増加傾向を見せています。その結果、2009年には高齢女性を除いて、日本の年齢層別の貧困率がほぼ同一となります。ここが、日本の貧困率の動態の一つの転機であることが分かります。

しかし、2009年からは、それまでの推移とは異なる傾向を見せます。2012年、15年、18年にかけては、好景気が続いたこともあり、勤労世代の貧困率は回復傾向となります。しかし、その回復の度合いは、1985年からの増加には及ばず、データがある最終年の2018年に12~13%となっています。

気がかりなのは、高齢者の貧困率が男性は2009年、女性は2012年以降、再び上昇していることです。日本の高齢者の貧困率が、他の3カ国に比べて比較的に低いことが、日本における公的年金制度が他国に比べて成熟しているからだとすれば、2009/2012年以降はその恩恵が徐々に効かなくなってきていると考えられます。同時に、勤労世代の貧困率の回復も芳しくなく、2018年時点でワーキング・プア率が4カ国中もっとも高いことも考慮すると、日本はどの年齢層も心配な状況です。

「日本は所得レベルが高いから貧しくても他国よりマシ」という誤解

(2)購買力平価でみる所得

しかし、相対的貧困率やワーキング・プア率は、あくまでも各国内において相対的に決められるものなので、日本の率が高いことを問題と思わない人もいるかもしれません。「日本の所得レベルが高いから、そのなかで相対的に貧困であっても、他の東アジア諸国の貧困ほど深刻ではない」と考えるからです。しかし、これは大きな間違いです。

それを示すために、絶対的な物差しとしてPPP(購買力平価)調整後のドル単位で揃えて、日本の状況を見てみましょう。PPPドルを用いると、各国の物価の違いを考慮して、所得を比較することができます。すなわち、各国の生活水準を比較することができるのです。ここでは、子どものいる世帯を対象とした分析の結果を紹介します。