母親の介護に欠かせないもの

母親は2019年、82歳の時に要介護3になり、現在は週3回ずつの訪問ヘルパーとデイサービス、週1回の訪問歯科医を利用。いずれも、前述のスーパーヘルパーの情報から選んだサービスだ。

フルタイムで働きながら澤田さんは、1日に4〜5回母親に電話をする。朝の服薬から洋服のチェック、就寝時間などをチェックするためだ。さらに2〜3週間に1回の頻度で実家に通い、郵便物チェックや実家の周囲の清掃や庭の手入れ、親戚や隣近所との付き合いや、役所や銀行の手続きなどをこなしていた。

幸い、隣にいとこ夫婦が住んでいるため、近所の付き合いや、宅配業者や訪問者が来たときなどは対応してくれていた。

ところが2019年の夏のこと。澤田さんが母親に電話をかけたところ、様子がおかしい。「誰か来てるの?」とたずねると、「うん、あのね、えっとね」と口ごもる。電話を替わってもらうと、「こんにちは。今お母様に、ご先祖供養についてお話しているところです」と話し始めたため、澤田さんは慌てて隣に住むいとこに、「今、実家に怪しい宗教関係者が来てる!」と電話をする。すぐにいとこが駆けつけてくれたため、どうにか事なきを得た。

それから澤田さんは、見知らぬ人を簡単に家の中に入れてしまうほど認知症が進んだ母親を心配し、対策を考え始めた。

そこで思いついたのが、「見守りカメラ」の導入だった。澤田さんは、機械やインターネット関係、パソコン周辺機器に詳しいわけではなかったが、介護関係者に話を聞いたり、家電量販店に何度も足を運んで販売員やインターネット業者などからアドバイスをもらったりした学んでいった。

天井に付けられた監視カメラ
写真=iStock.com/Andrey Sayfutdinov
※写真はイメージです

インターネット回線は、遅滞なく動画を送るために、光回線を選択。カメラはマイク付きで、双方向で会話ができるタイプ。カメラの設置場所は、最初は門扉から玄関までのアプローチと、テーブルの上も見えるようにキッチンを想定した。

母親には澤田さんが、「高齢者宅に、防犯のカメラを市役所が入れてくれることになったの。知らない人が入ってきたり、お鍋が焦げていないか警察や消防署がチェックして来てくれたりするんだよ。火事や泥棒は怖いからね」と説明すると、母親も同意。

「導入するにあたって母に嘘はつきましたが、『見張られている』『監視されている』ではなく、『見守られている』と母が安心できるようにしたいという思いからでした。認知症ですから、何を言ってもすぐに忘れてしまいますけどね……」

1カ月ほど検討した結果、最終的に澤田さんは、介護ブロガーが推す7000円ほどのシンプルなカメラを購入。9月の連休には、スーパーヘルパーに手伝ってもらい、実家にカメラを設置。「これで一安心!」と思った次の瞬間、帰宅した澤田さんの携帯に連絡が入る。

その頃は、スーパーヘルパーともうひとり女性のヘルパーが母親のケアに来ていたのだが、その女性ヘルパーが、「やっぱり見守りカメラに抵抗があるのですが……」と言い出したのだ。

あらかじめカメラ設置については相談して了解も得ていたし、「設置場所についてのアドバイスをもらったりしていたはずなのに……」と、澤田さんは愕然。

だが、澤田さんはすぐに思いついた。女性ヘルパーが来ている間だけ、カメラにハンカチを被せることにしたのだ。これには女性ヘルパーも快諾。

「カメラの目的は、母が1人の間の見守りです。考えてみれば、誰だって見られるのは愉快じゃありませんよね。私がヘルパーさんだとしても同じ気持ちです。もっと丁寧に話し合うべきだったと反省しました。ヘルパーさんに気持ちよく働いてもらう環境を整えることは家族にしかできません。見られる側、働く側の心理に、もっと配慮すべきでした」

カメラの機能は日々進化している。母親が何を食べているのか、何を着ているのか、どんなテレビを見ているのかを、澤田さんは自宅から確認できる。コロナ禍で帰省がままならない間も、「今日は寒いね・暑いね」と、部屋の様子を見ながら会話できるカメラは大いに役に立った。

時々、母親がカメラ本体の電源プラグを抜いてしまったり、Wi-Fi機器の電源を切ってしまったりすることがあるが、その度に澤田さんは隣家のいとこやスーパーヘルパーに直してもらうなどして対応した。