エアコンの電源プラグを抜いてしまうという母親の暴挙
「正直、介護は仕事ではないし、報酬もないので、やりがいは感じません。私が母を好きではないこともあるのでしょう。でも、外を歩く時、そんな私でも母と自然に手をつないで歩いたりします。弱い者をいたわる気持ちが自分にもあるのだと思う瞬間です。また、夫が私の母をいたわり、一緒に歩いてくれる姿に、『これが私の家族なのだ』と胸が熱くなります。『結婚してよかった』と思うのは、こんな時かもしれません」
介護費用は、基本的に母親自身の年金を使っているため、夫に経済的な負担を強いてはいない。しかし、時間は大幅にとられるうえ、介護に対する考え方の違いから口論になることがしばしば。そのときが一番つらいと澤田さんは話す。
「父とも良好な関係を築いてくれた夫には感謝しています。夫がいたから父をみとることができました。隣の家のいとこ夫婦や親戚、近所の人にも良くしてもらっています。直接の介護ではないけれど、異変があった時に駆け付けてくれる存在は本当に有難いです。そして、スーパーヘルパーさんは、神がわが家に遣わしてくれた天使です……。介護の苦労は、介護をしなくなる時まで続くと思います。介護は“家族で味わうつらさや苦しさの元凶”の1つだと思います。終わりを望めないから少しでもラクに続けられるように、ない知恵をしぼり、周囲に甘えていろいろお願いしています」
夫やいとこ、スーパーヘルパーや近所の人……。どれ1つ欠けても、澤田さんの介護は成り立たなかった。その他にも、澤田さんには介護経験のある友人や同僚も多く、愚痴を言い合ってガス抜きしながら、何とか仕事と通い介護を両立させている。
2022年8月からは、施設への入所の前段階として、母親にショートステイを体験させてみることにした。
テレビは生死に直接関係しないが、エアコンは直結する。35度を超える猛暑の中、エアコンの電源プラグをソファによじ登って抜いてしまうという母親の暴挙が続いたのだ。
「私は、母の希望が今の家で暮らすことであることを知っています。なので、施設に入れるタイミングは、母が私のことをわからなくなったらとか、排泄の失敗が続いたらとか、さまざまなアラームがあると思いますが、その時々に判断すればいいと思っています。ショートステイはその第一歩です」
隣近所や親戚に頼れない人も少なくないと思うが、「ちょっと気にかけてもらう」程度でもありがたいものだ。最低限、自分でないとできないことは自分でするしかないが、自分でなくてもよいこと、誰でもできること、自分でないほうがよいことは、それぞれ最も適した相手に任せるほうがよい。それでも悩みや不安、愚痴が出るのが介護だ。絶対に1人で抱え込んではならない。