自分たちはうまくいかないと双方が悟っているのに、離婚しない夫婦。現在50代の夫は28歳で結婚して以降、妻の言動に悩まされてきた。「妻とはモノの考え方が根本的に違う」「自分が我慢すればいい」と考えてきたが、次男の高校卒業を機に、別居生活することを決意。ネックは、自分が住んでいない戸建て住宅の6200万円のローン返済と家賃代で月計16万円も払っていることだ――。
夕日が沈む海を眺める男性
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【前編のあらすじ】現在中部地方在住の狩野遼さん(仮名・50代)は中学・高校・大学と彼女のいない期間がないほどのモテぶり。大学時代に付き合っていた女性の1人が妻だった。大学を卒業し、就職した後、妻の母親が末期がんと判明。同情した狩野さんは妻に、「お母さんに花嫁姿を見せてやろうか?」と口にし、その流れで結婚をすることに。しかし、新婚生活は順風満帆とは行かず、狩野さんは、小さなストレスが積み重なっていった。

離婚話の後の「子供を作ろう」

結婚から1年経ったある秋の日。30代になった会社員の狩野遼さん(仮名・50代)は突然、同い年で教員をしている妻に「離婚して」と言われた。特にケンカをしたでも浮気をしたわけでも、手を上げたわけでもなかった狩野さんは、寝耳に水。

狩野さんは、離婚を拒否した。

「(今から考えれば)拒否した理由が自分でも分からないのですが、おそらく新婚1年で離婚なんて『カッコ悪い』と思っただけなんだろうと思います。私の中で『カッコ悪い』というのは絶対に許せないことです。それに反することは絶対に受け入れられませんでした」

狩野さんはこのときから、「離婚のときに慰謝料を払う羽目にだけはなるまい」と思い、「有責配偶者(離婚の原因を作り、婚姻関係を破綻させた主な責任を持つ配偶者)にはならない」ことを固く誓った。どこかで離婚を意識しながらの新婚生活だったのだ。

それから約2年後、「子供を作ろう」と妻が言い出した。狩野さんは、「ま、いいか」と思うとともに、「子供を作ろうと言い出すくらいなんだから、もう離婚なんて言い出さないんだろうな」とも考えたという。

しかし、子作りに関しても不満が募った。

狩野さんが先に風呂に入ると、妻がコタツで寝てしまうのだ。狩野さんが起こすと、妻はとても不機嫌。

「私は子供が欲しいわけでも、妻を抱きたいわけでもないんです。寝てるところを起こされて機嫌のいい人間はいないと思いますが、妻が言い出したことなのに……と、不満を感じていました」

それでも約1カ月後、妻は妊娠。

そんな頃、狩野さんが実家に寄ったところ、「2人で食べて」と母親に魚を持たされた。帰宅すると妻が、「クサい! クサい!」と騒ぎ出し、狩野さんが母親からもらった魚が原因だと判ると妻は、「2人して私にこんな意地悪をして!」と怒る。

狩野さんは、自分だけならまだしも、母親に対する悪口には我慢できず、「意地悪なんかじゃねえだろ! 何でいつも人の気持ちを悪意に取るんだよ? そんなに嫌なら捨てりゃいいんだろ!」

と怒鳴り、魚をゴミ箱に投げ込む。

その翌日。妻は、「子供を堕ろす」と言い出した。狩野さんは、必死で思いとどまるよう説得。

「目の前の命が失われることに耐えられませんでした。これまで妻に対して自分が取った行動には後悔ばかりですが、このときの行動だけは1mmの後悔もありません」

やがて1995年、無事長男が誕生。結婚から5年後のことだった。