相手の言葉を丁寧に受け取らないのはコスト高

日本企業の多くの上司は、「話の受け取り方」が下手だと言ったら、言いすぎでしょうか。

話している部下としては、一生懸命に話しているのに、聞き終わった上司のリアクションが今ひとつだと、「あれっ? 伝わったのかな?」と不安になってしまいます。

上司の反応が毎回そんな薄いリアクションだと、「話をしても、どうせ意味がないかな……」と思って、だんだん話してくれなくなってしまうでしょう。

この「聞いたときのリアクションの大切さ」について、私は門下生に「首が折れるくらいにうなずけ」と伝えているくらいです。それから、部下から投げられた「言葉のボール」をしっかりと受け取る前に、もう別のボールを投げ返すようなコミュニケーションの取り方をする上司もいます。まるで、ボールを2つ使ったキャッチボールのような状態です。

この「相手の言葉を丁寧に受け取らない」という会話の仕方は、もしかしたらテレビの影響もあるのかもしれません。テレビ番組内での会話って、テンポ重視でポンポンポンと会話が流れます。それに慣れてしまうと、相手が言い終わる前にツッコむのが普通になってしまう。部下から言葉を受け取るときに、リアクションをはしょったり、ぞんざいな受け取り方をしていたりすると、意思疎通で齟齬そごが発生して、「言った、言わない」みたいなことが起き、あとでコスト高になることだってあり得ます。

部下の言葉を復唱しているか

ある会社での実例です。

その会社はビジネス系の某イベントにブースを出展することになり、若手社員のAさんをその出展責任者にしました。

Aさんは、ブースの話題づくりのひとつとして、女性コンパニオンのコスチュームをちょっと派手にしたんです。

その企業の社風からすると、少し派手すぎるデザインでしたが、Aさんは、ちゃんと、部長、課長、課長代理と、事前に上司たちの承認を得て、業者にコスチュームを発注しました。

ところが、もう後戻りできない段階になって、突然、部長から「なんだこのコスチュームは!」と待ったがかかったのです。Aさんがいくら「事前にオーケーをいただきました」と言っても、部長は「聞いていない」の一点張り。

そうなると課長も課長代理も手のひらを返して「○○君、なんだね、このコスチュームは」と。

まるで、安物のビジネスドラマのような展開ですが本当の話です。結局、頭にきたAさん。上司たちには「わかりました! 変更すればいいんですね!」と言い放ち、当日まで黙っていて、最初にオーケーをもらった派手なコスチュームのまま出展してしまったそうです。

林健太郎『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか? 職場の心理的安全性が高まる本』(三笠書房)
林健太郎『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか? 職場の心理的安全性が高まる本』(三笠書房)

結果、良かったのか悪かったのかは別にして、イベントに関するメディアのニュースでは、そのコスチュームがおおいに話題になったのだとか……。

この事例で言いたいことは、最初にAさんからコスチュームの提案があったとき、上司たちがしっかりと受け止めていなかったために、こんな結末になってしまったということです。

Aさんはこの事件のあと、上司が信用できなくなり、上司に黙って内緒で仕事を進めることが多くなり、その後、その会社を辞めてしまったそうです。こうして考えると、部下が「○○で、○○なんです」と言ってきたら、「○○で、○○なんだね」という、復唱が大切になります。

ぜひ、部下からの話は丁寧に受け取るように心がけてください。

【関連記事】
ダメな上司ほど最初に使ってしまう…「部下との1対1」で避けたほうがいい"ある言葉"
指示に従わない「くせもの部下」との1対1面談で、一流の上司が最後にする"最強質問"
こうして社員はやる気を失う…いつまでも部下の信頼を得られない上司に共通する「最悪の口癖」
「なぜ会社に行く必要があるんですか?」部下に聞かれたときの超一流上司の回答、三流上司の回答
「無謀な命令を繰り返し、部下を無駄死にさせる"乃木希典"のような上司」をスマートにかわす最良の対処法