東芝、日立、重工の生き残り策はこれだ

原発大国フランスのサルコジ大統領が緊急来日し協力を約束した。(写真=AP/AFLO)

原発大国フランスのサルコジ大統領が緊急来日し協力を約束した。(写真=AP/AFLO)

次に、原子炉をつくっている3社、東芝、日立、三菱重工はどうすべきか。

ここ数年、日本の輸出産業の花形として注目され、世界最強の原子力産業などと浮かれていたが、よくよく考えてほしい。79年のスリーマイル島の原発事故以来、アメリカやドイツがつくらなかっただけのことで、彼らが30年間眠っている間に日本とフランスだけが専心してきたにすぎない。今度は日本が30年、原発をつくれない番になる。国内新設も輸出も難しくなる「苦難の30年」が始まることになる。

問題は30年もつくれないと、エンジニアが離散していなくなってしまうことだ。一度、エンジニアが途絶えてしまうと、次に再生するときには何十年もかかる。私は米国留学時代、MIT(マサチューセッツ工科大学)大学院の原子力工学科に籍を置いたが、当時私の大学院のクラスには“同期の桜”が130人もいて、世界各国の精鋭が集う花形学科だった。しかし、スリーマイルの事故を経て私がMITの社外取締役になった90年代には途上国の学生ばかりで、その数は十数人に激減、学部の存在意義はなくなり、原子力工学の看板を環境とかクリーンとかに掛け替えて生き延びるしかなかった。

日本の原子力技術者を維持するためには、東芝は原子力部門をウェスチングハウスという自ら買収した会社にリバース・テーク・オーバー(未上場企業による上場企業の買収)させたほうがいいと思う。原子力部門の表看板をウェスチングハウスにして、東芝はその裏方として原発のエンジニアリングや設計、施工を行う、という形で技術者を維持するのだ。

日立も同様。日立は07年にGEと原子力事業で提携して「日立GEニュークリア・エナジー」という合弁会社を設立した。出資比率は日本では日立51%・GE49%、アメリカではGE51%・日立49%だが、出資比率を下げてもいいから、どちらも社名から日立を外して表の看板はGEにする。福島第一原発はGEの設計で、今回の事故もGEに責任があるのだが、「日本の原子炉!」というブランドに墨が塗られた現状では、GEを前面に押し立てて福島原発の悪夢から距離を置かなければ生き残れないだろう。実際の原発の設計施工は日立のエンジニアがやるにしても、だ。コールオプション(将来の取引についての約束)を設定し、いつでも日立が51%出資を回復できるよう工夫しておくべきだろう。

東芝も日立も今回の原発事故で数多くの知見を得られるだろうから、従来よりもはるかに強くなる。しかし、一度、汚名を着せられるとそのままでは生き残れないのが原子力の世界なのだ。ここは名を捨てて実を取るつもりで、生き残りを図ってほしい。

三菱重工は加圧水型原子炉(PWR)が強みなので、沸騰水型原子炉(BWR)である福島の事故とは直接関係ない。それでも百歩譲って安全策を取るべきで、技術提携しているフランスの大手原発メーカー、アレバの軒下を借りて事業を続けたほうが得策だと思う。

誇り高き日本の原子力産業にとっては屈辱的な冬籠もり作戦になるが、とにかくエンジニアの芽を絶やさないことが重要だ。現実に原子力開発の作業をこなせるのは日本勢とフランス勢しかいないので、仕事はある。世界中で新型原子炉の導入は一時的に減速することになるだろうが、中国を筆頭に新興国では原発推進の余熱は残っている。