医療現場で起きている混乱

中絶が禁止されているウィスコンシン州では、救急治療室のスタッフが不完全流産をした女性の体から胎児組織を取り除くことをためらったという。胎児組織を取り除くためには通常、子宮内膜掻爬術を行うが、これは人工中絶の際にも使われるため、医師が中絶手術を行ったとみなされるのを恐れたからだ。その結果、その女性は10日以上出血で苦しんだという。

また、ダラスの2つの病院が、妊娠22週以前に破水やその他の深刻な合併症を起こした28人の患者について調査した結果も報じられている。この妊婦たちは、「生命への『緊急の脅威』があるか、胎児の心臓の活動が停止するまで医療介入できない」というテキサス州の法律のため、医療処置がすぐに受けられなかったという。彼女たちは、「平均9日間待たされ、57%が重篤な感染症、出血、その他の医学的問題を抱えることになった」と報告されている。

「今回の決定は、混乱と恐怖を生んでいます。私たちは、医学的に何をすべきかは分かっていても、法律に基づいて何ができるのかが分からないのです」とアトランタのニシャ・ベルマ医師はワシントンポストに語っている。この医師のいるジョージア州では、7月20日、裁判所が、6週間を超えた中絶は違法であると判断している。

子宮外妊娠や流産は大量の出血を伴う。数時間で死に至ることもあり、一刻を争う。そんな時に、何時間もの移動を強いられたり、中絶手術とみなされ州法に抵触することを恐れ、医者が手術をしないなど、ありえないことではないだろうか。

対立する民主党と共和党

医療現場でこのようなことが起きている一方で、首都ワシントンでも法手続きを進め、妊婦を保護しようという動きがある。

民主党は、中絶の権利を全米で保障する法案と、中絶を受けるために他の州へ移動する権利を保障する法案の2つを議会に提出し、下院は7月15日、それぞれを賛成多数で可決した。

しかし、これには共和党から激しい反発がでているため、民主党が主導する下院では可決されたものの、上院での法案の成立は、ほぼ不可能だとみられている。

現在、上院では、民主党、共和党がそれぞれ50ずつの議席を持っている。しかし、予算関連法案や人事案などの例外を除き、上院で討論を打ち切って法案の採決に進むためには、議席の5分の3、つまり60票以上の賛成を必要とするという規定がある。法案成立には過半数だけではなく、事実上60票の賛成が必要になるということだ。当然、民主党だけでは賛成票が足りない。