ロシアの新興財閥「オリガルヒ」はこれまでプーチン大統領を支える立場だと言われてきた。ところが、このところオリガルヒ幹部の不審死が相次いでいる。一体何が起きているのか。池上彰さんに増田ユリヤさんが聞く――。(連載第4回)
2022年7月11日、モスクワのクレムリンで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、モスクワ州のアンドレイ・ボロビョフ知事と会談
写真=AFP/時事通信フォト
2022年7月11日、モスクワのクレムリンで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、モスクワ州のアンドレイ・ボロビョフ知事と会談

ロシアの新興富裕層も公然とプーチン批判を始めた

【池上】6月28日、ロシアのオリガルヒの一人であるオレグ・デリパスカ氏が、ウクライナへの軍事侵攻を批判しました。「AFP=時事」は、次のように報じています

〈ロシアが軍事攻撃によりウクライナを破壊するのは「途方もない間違い」だと指摘した。実業界の大物からの自国非難はまれ。デリパスカ氏は、ロシアのアルミ製造会社ルサールの創業者で、西側諸国による対ロシア制裁の対象となっている。首都モスクワで行われた記者会見で、デリパスカ氏は「ウクライナを破壊することはロシアの利益となるのか。もちろん違う」と言明。〉

新興財閥オリガルヒは、プーチン大統領を支える立場だと解釈されてきました。しかしデリパスカ氏のように、政権を公然と批判する人もいます。実際にはどんな存在で、大統領との関係はどうなっているのでしょうか。

オリガルヒというのは、「少人数での支配」や「寡頭制」を意味するギリシャ語です。ソ連が崩壊した際の経済自由化に乗じて勃興した、新興財閥のことです。

エリツィン大統領の時代に「独占資本家」となった

ソ連時代は、すべての産業が国営企業でした。国営ということは、全国民が株主になる権利があるということになります。そこで、1991年のソ連崩壊後、ボリス・エリツィン大統領によって多くの企業が民営化されることになったとき、バウチャーを発行してすべての国民に無料で配ったのです。バウチャーを持ってくれば、好きな会社の株券と引換えてくれるという仕組みです。

ところが社会主義しか知らない国民には、資本主義の仕組みやバウチャーの意味がわかりません。そこへ目端の利いた共産党の幹部がやって来て、「そのバウチャーを買ってあげますよ」と持ちかけます。役に立たない紙切れを買ってくれるならありがたいというわけで、多くの人が話に乗りました。そうやってたくさんのバウチャーを買い占め、株式に引き換えて大株主になっていった人が、オリガルヒの始まりです。

エネルギーや資源などの重要な産業分野で、独占資本家が次々に生まれました。テレビ局や新聞社を買収するなど大きな影響力をもつようになり、政権を批判する報道も増えます。