星野リゾートが大阪市民に仕掛けた“ある作戦”

広い敷地を安く手に入れた結果、星野リゾートは土地利用にゆとりをもたせることができた。

都市のど真ん中でありながら、リゾートのような土地の使い方。それが「みやぐりん」(新今宮のみやとグリーンの造語)と呼ぶガーデンエリアである。新今宮駅のホームからよく見えるこのスペースが、夜になると光景が一変する。

あちこちにカラフルなネオンアートが輝き、浴衣姿にビール片手でそぞろ歩く人の姿が見える。OMOで初めて導入した浴衣と敷地内にある湯屋(温浴棟)が温泉リゾートのようなリラックス感を演出する。

22時近くにはホテルの外装壁面を利用したユニークな花火「PIKA PIKA ファイアワークス」が始まり、夢の夜はフィナーレになる。

大阪市民は、楽園のようなリゾートの世界を通勤電車の窓から見ることになる。

華やかな仕掛けのめくるめく風景が、多くの人たちにとって「降りてはいけない」と長年すり込まれてきた新今宮である事実は、衝撃的なインパクトがある。

ホテルの外壁膜を利用したユニークな花火「PIKA PIKA ファイアワークス」
画像提供=OMO7大阪

これこそが地域の活性化を望んでいた大阪市の要請に応えた星野リゾートの戦略だ。敷地それ自体を新今宮エリアの広告塔にしたのである。

まずは驚かせ、そして新今宮駅で降車させる。駅からどのように見えるか、周到に計算したと星野代表は言う。

この作戦は成功したと言っていいだろう。開業後、地元からの注目度は絶大だった。在阪TV局全局が取材に訪れ、開業後の数カ月は宿泊客の約7割を地元大阪のゲストが占めた。西成という挑戦的な立地と電車の窓から見える風景への憧憬。「いっぺんみてこよか」となったに違いない。

ちなみに、開業から3カ月ほどたった現在でも、週末は満室になることがほとんどで、地元客の利用が多いという。

星野リゾートらしいエッジの効いた作戦

星野リゾートはラグジュアリーリゾートのイメージが強いが、本質的な強みは従来の日本のホテルや旅館の常識を破ってきたことにあると私は考える。

先に話した電車から見えるOMO7大阪の景観は、本来の星野リゾートらしい、エッジの効いた作戦で攻めてきたな、という印象を持った。

トマムと並ぶ大規模施設の再生案件だった「星野リゾート 青森屋」のキラーコンテンツ、「みちのく祭りや」(祭りで使用したねぶたを受け入れ、通年で県内の4つの祭りを再現。スタッフ自らが踊り、笛や太鼓を奏でるショー施設)を初めて見た時の驚きを彷彿とさせた。

大企業としての星野リゾートではなく、地方の中小企業が事業継承し大胆な企業再生で注目されていた頃の勢いとやんちゃさがOMO7大阪ではじけている。