引退した路線バスを改造した移動式サウナ「サバス」が人気を集めている。完成させたのは兵庫県のバス会社「神姫バス」の松原安理佐さん(29)。バス会社の社員だが、完成までには約40万円を自腹で負担するなど、多くのハードルがあった。なぜやり遂げられたのか。インタビューライターの池田アユリさんが取材した――。
兵庫県のバス会社「神姫バス」の松原安理佐さん。
筆者撮影
兵庫県のバス会社「神姫バス」の松原安理佐さん。

サウナバスを生み出した29歳バス会社員の素顔

兵庫県姫路市の国道2号線沿いにある「神姫(しんき)商工株式会社」で、一風変わったバスが作られた。路線バスを改造した“移動できるサウナバス”である。

2022年3月5日、兵庫県神河町のアウトドア施設「グリーンエコー笠形」で開催されたサウナバスの体験会では、24枠の募集に約250人の申し込みが集まった。

初めてサウナバスを見た利用者は、目を輝かせながら言った。

「ほんまにバスなんや」
「よう作ったな!」

この体験会を皮切りに、なにわ健康ランド湯~トピア、奈良健康ランド、北近江リゾートなどの関西の施設を中心にサウナバスを貸し出したところ、1日約40名限定の予約枠がすぐに埋まるほどだった。

実際にサウナバスの中を覗いてみよう。

前方の入り口から靴を脱いで入ると、目の前には運転席。まごうことなくバスだ。しかし、バスの前半部には、テーブルとバスの座面を活用したイスが設置されており、サウナ用の休憩スペースになっている。つり革や手すり、降車ボタンはそのまま残っており、バスの雰囲気を保ったままだ。

サウナ用の休憩スペース。奥にサウナ室がある。
筆者撮影
サウナ用の休憩スペース。奥にサウナ室がある。

さらに奥に進むと、サウナ室とネームプレートが掲げられた扉。ドアハンドルは座席の取っ手だ。中に入ると、4列ある木製シートがバスの乗車席と同じように正面を向いて並んでおり、手すりとひじ掛けにはサウナで火傷しないように麻ひもが巻かれている。

ストーブは、サウナメーカーの世界トップシェアを誇る「HARVIA(ハルビア)」の薪ストーブだ。サウナのクオリティーの高さとバスならではの大きな窓からのぞく景色に、私は高揚感を抱いた。

けれど、このサウナバスが完成するまでの道のりは平坦ではなかった。