当時の松原には、忘れられない思い出がある。

大学1年生の1月。誕生日を迎えた深夜0時にケータイが鳴った。「メールだ。誰からだろう?」と思いながら手に取ると、間髪いれずに次の通知が鳴った。

メールを開くと、サークルの先輩や同期からだった。メールの一つ一つに写真が添付されている。キャンドルを並べて文字を描いた写真や、体でアルファベットを表現している写真、それぞれが試行錯誤して作ったことが見て取れる写真が、続々と届いた。

すべての文字を繋げると、「HAPPY BIRTHDAY」。仲間からのサプライズの誕生日メールだったのだ。松原は驚きと感動で胸がいっぱいになった。

「大学1年生ですし、まだそこまで関係が深まりきってない頃だったと思います。それなのにこんなふうに祝ってくれるなんて、すごいな、ありがたいなって。感動は時間の長さじゃないんだなって思いましたね」

仲間からの誕生日祝いを受けて、松原自身も拍車をかけるようにイベントの企画に心を込めた。その企画は実に多彩である。サークル仲間の誕生日会から、「ケーキをいっぱい食べる会」、「自転車で姫路―岡山を往復する会」など、人がワクワクするようなイベントを企画。子ども時代からは想像できない自分になっていた。

車内はつり革や手すり、降車ボタンがそのまま。
筆者撮影
車内はつり革や手すり、降車ボタンがそのまま。

最初は受ける気がまったくなかったバス会社に就職

大学4年生になり、就職活動が始まった。松原は進路について、「新しいことを考えたり、企画したりするような職業がいいな」と思った。そのため、業種を絞らずに全国にある会社の企画職を受ける。そのひとつに、老舗のバス会社「神姫バス」があった。

神姫バスは兵庫県で路線バスを運営しており、地元でなじみのある会社。姫路市出身の松原は当然名前を知っていたが、最初は受ける気がまったくなかった。友人からの誘いがあり、軽い気持ちで会社説明会に参加したのがきっかけだった。

そこで出会ったのは、同会社の事業戦略部の女性社員。凛としたたたずまいを見て、松原は「かっこいいー。素敵やな」と思った。

「その方とお話したときに、神姫バスにはさまざまな事業があることを知りました。バス事業だけでなく、フランチャイズでTSUTAYAを運営していたり、グループ会社で旅行や飲食の事業もやっていたり。事業戦略部という企画ができそうな部署もあって、そこでかっこいい女性が働かれていたから『ここで働きたい』って思いました」