6年前、「寝た子を起こすな」と防災の強化を阻害した原子力安全・保安院。3.11後の新たな防災指針案にも、重大な“欠陥”が……。
「理解し難い」「削除されたい」……居丈高な圧力
6年前の2006(平成18)年、経済産業省の原子力安全・保安院が強権を発動して、内閣府の原子力安全委員会が検討中だった「防災強化」を阻害したことを3月17日に新聞各紙が一斉に報じた。防災強化の検討を進めていた安全委に対して同年5月に催された昼食会で、当時の広瀬研吉保安院長(現内閣府参与)が「事故は起こらない。なぜ寝た子を起こすのか!」と激しい口調で責めたという。当時、安全委で防災指針の見直しを担当していた久住静代氏が証言したものだ。その結果、翌年に防災指針への導入が検討されていた「予防的防護措置を準備する区域」(PAZ)が見送られた。
指針見直しを進めようとしていた安全委と広瀬氏が陣頭指揮をとっていた保安院との間で交わされた当時のFAXのやりとりを見ると、新たな防災指針を検討しようとしていた安全委に対して保安院が執拗かつ威丈高に中止要請を発し続けていた様子が窺える。
このうち、力関係の差が顕著に表れている最も決定的な文書が、別掲の2つの文書(2006年6月14日付の安全委文書と、翌15日付の保安院文書)である。保安院が防災強化への動きを押し潰す様子が最も顕著な部分を、15日付のFAX文書から拾い出してみよう。
(防災関係の安全指針案の検討について)
保安院「立地地域を混乱させるおそれがあることから、我が国の防災指針を見直すべきではないとの考えである」
(防災指針の改訂について)
保安院「当院の認識を十分確認せず、防災指針の見直しについてワーキンググループにおいて検討を始めたことに対し、改めて抗議するとともに、貴課の対応に懸念を述べるものである」
(議論が国民への説明責任上、不可欠との認識について)
保安院「意味不明であり、とうてい理解しがたい」
(公開の場で議論を開始したことについて)
保安院「当院の意見、考え方を十分に確認せず、一方的に防災指針について改訂の検討を開始したことは、貴課の不注意と言わざるを得ず、誠に遺憾である。原子力安全委員会で防災指針の見直しの議論を始めた貴課の責任として、当院の考え方を十分斟酌して検討されることを改めて申し入れる」
(防災指針改訂の検討に懸念を示す保安院の意図について)
保安院「確定的影響が発生するかのような記述ぶりは、原子力発電所の安全性に対し、周辺住民及び国民の不安感を惹起し立地地域に混乱を来すおそれがあるため、削除されたい」