原発事故時、逃げるか否かは電力会社が決める!?

現在会期中の通常国会で審議が遅れている新しい規制機関は、安全委と保安院によるダブルチェック体制を一元化しようというものだ。現行のように監視責任を分散する形では、それぞれの規制領域が曖昧になり、規制機関としての責務を軽くしてしまう。それが結果的に職員の無自覚・無責任を促してきた。規制機関を一元化して、推進機関と1対1で真っ向から対峙させる仕組みにすれば、確かに緊張感は生まれる。政府機関から独立させることは必要最低限の条件だ。

しかし、組織の所属を変えたり、2つの機関を一元化するだけでは、従来と同様、事実上の“骨抜き機関”になる。原発推進の政府と馴れ合いが続けば、やはり国民の安全は保障されないからだ。推進機関と規制機関を名実ともに分離するためには、規制機関に、国民の安全確保を担う「名誉ある守護神」としてのプロ意識を発揮できる立場と権限と“将来”を与えるべきだろう。

具体的には、推進機関と規制機関の間で安易な人事異動を禁じ、規制機関には安全確保に必要な断固たる権限を付与することだ。国民の安全確保の役目を果たすことが職員の功績とキャリアに直結する制度的環境を準備しなければ、官僚のプロ意識は育たない。規制機関で官職を終えても、充分な人生設計ができるという保証が必要だ。審議会などの委員選定の基準も根本的に見直し、御用学者や御用マスコミ人による予定調和の会議を徹底的に排除しなければならない。

つまり、規制機関一元化だけでは何も変わらないということだ。実際、原子力行政は相変わらず国民の目を欺くような仕掛けに余念がない。

例えば、いま進められている防災指針「予防的防護措置を準備する区域」(PAZ)にも、実はとんでもない“欠陥”がある。

PAZでは「緊急事態を区分するための判断基準」に該当した場合、危険を報知された住民は自動的に避難する。その対象範囲は、18日の福井県・原子力防災訓練で実施されたように概ね5km。その「判断基準」は、緊急時活動レベル(EAL)であらかじめ定められている。例えば、ある震度以上の地震をEALと規定した場合、そのレベルに該当する地震発生時には原発事故の有無を問わず住民は避難することになる。

ところが、原子力施設等防災専門部会防災指針検討ワーキンググループが今年1月に作成した文書(「原子力発電所に係る緊急事態の区分と区分決定のための施設における判断基準に関する考え方(案)」)を見ると、そこにはこう明記されているのだ。

「EAL については、各原子力発電所で発生し得る異常や事故を分類、整理し、緊急事態区分ごとの判断基準として、事業者が具体的に定める必要がある」(強調表示筆者)

これはつまり、こういうことだ。「従来より広い範囲の避難区域を対象としたPAZは、EALであらかじめ決められた地震規模の基準に則って発動する。そして、そのEALを緊急時に決めるのは原子力事業者である」――。

原子力事業者とは、いうまでもなく電力会社のことだ。福島第一原発事故では、政府と東電が事故の規模をできるだけ小さく見せるため、様々なゴマカシと事実の隠蔽を行ってきた。しかも、それは今も続いているのだ。

事故発生時のEAL決定が原子力事業者だけの手に委ねられることを、国民はこのまま黙認してよいかどうか。もし再び原発事故が発生すれば、住民はまたしても被曝の危機から逃れる機会を失ってしまうかもしれないのだ。