「まずい牛乳」に気づかない日本の消費者

しかし、なぜ日本の消費者は、味の違いで還元乳と普通牛乳が区別できないのか。

ここにもう一つ根本的な大きな問題が惹起じゃっきされるのである。

実は、日本の牛乳業界には、見方によっては、「経営効率重視で消費者が二の次」といわれてもやむを得ない側面がある。

日本の消費者が味の違いで還元乳と普通牛乳が区別できないのはなぜかといえば、日本では、120℃ないし150℃、1〜3秒の超高温殺菌乳が大半を占めているからである。

つまり日本人が飲んでいるのは、たとえ普通牛乳であっても、アメリカ人であれば「cooked taste」といって顔をしかめる風味の失われた牛乳であるから、還元乳との味に差を感じないのである。

アメリカやイギリスでは、72℃・15秒ないし65℃・30分の殺菌が大半であるから、日本で流通している普通牛乳とはまるで違うものなのだ。

鈴木宣弘『食の戦争』(文春新書)
鈴木宣弘『食の戦争』(文春新書)

1〜3秒の超高温殺菌というのは経営効率からなされた選択に他ならないが、この製法に慣れてしまった現在、また、消費者がむしろ「cooked taste」に慣れて本当の牛乳の風味を好まない傾向もあって、いまさら、業界全体が72℃・15秒あるいは65℃・30分の殺菌に流れることは不可能という見解も多い。

しかし、消費者の味覚をそうしてしまったのもこの業界である。

しかも、非常に重要なことは、「刺身をゆでて食べる」ような風味の失われた飲み方の問題だけでなく、超高温殺菌によって、①ビタミン類が最大20%失われる、②有用な微生物が死滅する、③タンパク質の変性によりカルシウムが吸収されにくくなる、などの栄養面の問題が指摘されていることである。

消費者の健康を第一に、もう一度、この国の牛乳のあり方を考え直してみる姿勢が必要ではないかと思われる。

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