米ジョンズ・ホプキンス大学のつくった追跡サイト「COVID-19 ダッシュボード」は、WHOよりも早く世界各国の感染者数やワクチン接種者数を公開している。「画期的なシステム」と評価されるサイトはどのようにして生まれたのか。産経新聞外信部の黒瀬悦成編集委員の著書『世界最強の研究大学 ジョンズ・ホプキンス』(新潮社)より、一部を紹介する――。

カフェテリアでの雑談から生まれた大発明

2020年1月21日、米東部メリーランド州ボルティモア。ジョンズ・ホプキンス大学にあるカフェテリアの片隅で、2人の人物が世界の疫病対策に大きな一石を投じる発明を生み出そうとしていた。

システム科学工学センターのローレン・ガードナー准教授、そして大学院博士課程の留学生で、ガードナー氏の下で研究をしていた中国人の董恩盛氏だ。

董氏は中国山西省の太原市(人口約530万人)出身。重慶市の西南大学で地理学を学んだ後に米国に渡り、アイダホ大学の大学院で地理学と統計学の修士号を取得。その後、ジョンズ・ホプキンス大学の大学院に進んだ。

きっかけは、休憩時間の雑談だった。2人は初めのうち、デング熱や麻疹の研究などについて話し合っていたが、やがて話題は新型コロナへと移っていった。董氏の出身地は、武漢から約960キロ離れた山西省の省都・太原市。武漢からはある程度離れているものの、当然のことながら、太原市に住む家族や親族の身の安全を案じていたのだ。

わずか1日でコロナ追跡サイトの原型が完成

また、2日前の1月19日、太平洋岸の米西部ワシントン州で全米初の新型コロナウイルス感染者が確認された。2人はウイルスの脅威が東海岸のボルティモアにもひたひたと近づいていることを肌で感じていた。

翌日、2人は再び顔を合わせ、一つの考えで一致した。

「世界を席巻する勢いをみせるウイルスに対処するには、ウイルスの動向を注意深く追っていくことが不可欠だ」

ガードナー氏は董氏に対し、新型コロナの感染状況をオンライン上で追跡するサイトを立ち上げることを提案した。そして、2人は「COVID-19 ダッシュボード」の原型となるウェブサイトをわずか1日で作り上げた。

まず行ったのは、中国の国内における感染状況の一つ一つを地図に落とし込むという作業だ。最初に収集されたのは、中国のいくつかの都市のデータで、数百件程度だったという。