世界有数のスポーツ用品メーカー「ナイキ」の始まりは、日本製のランニングシューズを米国で販売することだった。ナイキ創業者のフィル・ナイトさんは「当時、ランニングシューズはドイツ製が良いとされていた。しかし私は、かつてのカメラがそうであったように、日本製でも通用するのではないかと考えた」という。アメリカの人気番組『ザ・ルーベンシュタイン・ショー』をまとめた書籍『世界を変えた31人の人生の講義』(文響社)から紹介しよう――。
タイ・バンコクのナイキの旗艦店
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時価総額1000億ドルの大企業はいかにして生まれたのか

【デイヴィッド・ルーベンシュタイン(以下「ルーベンシュタイン」)】ナイキの創業時には、シューズのデザインなどまったくの素人で、マネジメントのノウハウもなければ資金もありませんでした。ところが現在では企業の時価総額はおよそ1000億ドル、収益は約400億ドル、従業員数は7万4000人にのぼります。60年代前半にナイキを起ち上げたころ、これほどの成長は予想されましたか?

【フィル・ナイト(以下「ナイト」)】ときどきそういう質問を受けると、いつも『計画通り』と適当に答えますが、あなたの番組ですから、きちんと答えないといけませんね。ええ、誰ひとり予想もしなかったような、素晴らしい経験でした。

私たちが営業を始めた当時は、アメリカ国内でのブランド物スポーツシューズの売り上げはおよそ20億ドル。昨年は90億ドルでした。現在の我々のマーケットシェアは、開業当時の4.5倍(450パーセント)です。

時流も優位に働きましたね。まずランニングブームが起こり、それがジョギングブームへと続き、さらにフィットネスブームに火がつきましたが、我々は常にその恩恵を受けることができました。

製品は最も重要なマーケティングツール

【ルーベンシュタイン】恩恵を受けたとおっしゃいますが、それは会社がテクノロジーとマーケティングのどちらに優れていたからだとお思いですか? つまり素晴らしい製品を開発していたからでしょうか、それとも卓越したマーケティング能力を備えていたからでしょうか? あるいはその両方があったから?

【ナイト】我々はマーケティング会社であり、製品は最も重要なマーケティングツールです。

【ルーベンシュタイン】あえて言うなら、ご自身にはどんなスキルがあったと思われますか? それは知性でしょうか、旺盛な意欲でしょうか、それとも強いリーダーシップでしょうか?

【ナイト】全部ですね――いや、それは冗談。ひとつあるとすれば、人を見る目でしょうか。(テーブルの上にあった、彼の回顧録である『SHOE DOG』を指して)私がその本で伝えたかったことのひとつは、草創期に苦労をともにした職場のチームメイトたちが、いかに尊敬できる大切な同僚であり仲間であったかということです。彼らは本当に素晴らしかった。