大学時代「心の底から靴を愛する」ランナーだった

【ルーベンシュタイン】正直に告白しますが、この本を読むまで『シュードッグ』とは何なのか知りませんでした。みなさんに説明していただけますか?

【ナイト】10文字前後で答えるなら、シュードッグとは、『心の底から靴を愛する人』という意味、つまり私のことです。私はランナーでした。コースに何かの障害物があるわけではありませんが、すべてはシューズが頼りなんです。私はそれを嫌というほど思い知らされたので、それ以来、シューズのことが頭から離れませんでした。

【ルーベンシュタイン】高校時代はスポーツをされていましたね。トラック競技でした。有名選手でしたか、それともごく普通の選手でしたか?

【ナイト】平均よりは上でしたが、スーパースターとまではいきませんでしたね。

【ルーベンシュタイン】でも、オレゴン大学で特別奨学金をもらうほどだったとか?

【ナイト】いえ、もらっていませんよ。チームの選抜テストを受けて入りました。

【ルーベンシュタイン】あなたのベストタイムは――記憶によれば――1マイル4分10秒でしたね。

【ナイト】4分13秒です。でもほぼ正解ですね、素晴らしい。

【ルーベンシュタイン】4分13秒でしたか。では、3秒負けておきましょう。

【ナイト】そりゃ結構。今度から4分10秒ということにしますよ。

【ルーベンシュタイン】今日はあなたにふたつのうちのどちらかを選択してもらおうと思います。さて、ナイキを起ち上げるのと3.56マイル走るのとでは、どちらが良いですか?

【ナイト】3.56マイル走とナイキの起ち上げ? ……まぁナイキでしょうね。それにしても、答えるのに少し間があきましたね。

発想はスタンフォード・ビジネススクール時代に生まれた

【ルーベンシュタイン】あなたは1年間のアメリカ陸軍勤務を経たあと、さらに数年間、陸軍予備役に就かれます。その後、スタンフォード・ビジネススクールに進まれるわけですが、スタンフォードを選んだのには、何か理由があったのでしょうか?

【ナイト】そうですね、昔から変わらず良い学校ですし、入学が許可されたので。

【ルーベンシュタイン】なるほど、許可された。確か、起業家コースもありましたね。

【ナイト】担当教授も生き生きとしていて、大いに触発されました。学期末にレポートを書かされ、それで成績が決まるんです。学生は一時的に、サンフランシスコのベイエリアにある中小企業に所属するか、もしくは何らかの事業を起ち上げるよう求められます。教授は我々に、『そこで君たちが知り得たことを書くように』と指示しました。

クラスメートのほとんどは、電子工学関連のプロジェクトについて書いていましたが、私にはそういう知識はありません。でもそのとき、シューズ作りに関心を持っていた陸上競技のコーチを思い出したのです。私は彼の試作品を履く、いわば実験用のモルモットだったので、シューズができるまでのプロセスは詳しく知っていました。