20世紀の戦争では、時刻を告げる「時計」の技術革新によって、より悲惨な犠牲が出るようになった。さらに戦争で時計が重要になったことから、それまで女性のものだった腕時計は、男女兼用の製品に変わっていったという。イギリスの技術史家、デイヴィッド・ルーニー氏の『世界を変えた12の時計』(河出書房出版)より、一部を紹介しよう――。
腕時計
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時計は残虐な戦争の歴史を物語っている

時計は戦争を可能にし、戦争もまた私たちが時計を使う方法に影響をおよぼす。歴史から一つだけ事例を引くために、今日の軍事ロケットとミサイルがいかにウィリアム・コングリーヴに恩義を負っているかを考えてみよう。

1808年にロケットの飛行時間を計測する新しいタイプの時計を設計した、ロケット工学の開拓者である。コングリーヴの時計には小さな金属球が入っており、傾斜した金属板に刻まれた軌道上をジグザグに進み、軌道の終点に到達するとバネが動いて、金属板が反転してそのプロセスを繰り返す。

コングリーヴは自分の発明の正確さに多大な期待を寄せていたが、これは工学的に欠陥があって、計時装置としてはお粗末なものとなった。だが、まもなく時計学では別のイノベーションがつづき、軍事用の弾道学や爆発物の正確な発射に貢献することになった。

1970年代に、イギリスの時計製作所であるスウェイツ&リード社がコングリーヴの時計の複製をつくった。この複製はいまでは多くの博物館のコレクションで、興味をそそる過去の時計学の珍品として見ることができる。これらの奇妙な時計を見ることによって、私たちは残虐な戦争の歴史を見ているのだ。

スウェイツ&リード社のボール転がし時計
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スウェイツ&リード社のボール転がし時計、1972 年頃製作

あるいは、トマス・マーサーなどの会社の業績について考えることもできるだろう。同社は、海軍が戦争を遂行し帝国を築くに当たって、安全な航行を手助けする航海用クロノメーターを製作していたが、冷戦中に無線による位置情報の補助が優勢になると、仕事がなくなり始めた。そこで、マーサーは時代に遅れないように先へと進んだ。

イギリスのポラリス・ミサイルは標的に衝突する直前に爆発させて、破壊と人命の損失を最大限にするために起爆タイマーを必要としていた。だが、電子タイマーであれば、爆撃のなかでその他のミサイルの爆発で生じた大規模な電磁波によって破壊されてしまうだろう。

1982年に開発された戦闘にも耐えうる機械式タイマーこそ、核の時代にマーサーが寄与したものだった。これらの機械式タイマーもいまでは博物館の展示物となっているが、質素な形状であるということはしばしば見逃されてきたことを意味する。私たちはもっと注意深く見る必要がある。