21世紀の戦争と20世紀の戦争の違い

21世紀の武力紛争は、熱い戦争でも冷戦でも、20世紀の戦争のようなものではない。当時はそれぞれの境界が明白に思われた。一国が、あるいは同盟を組んだ数カ国の集まりが、別の相手と戦っていたのだ。戦争は現実に存在するものだった。交戦中の国が存在しつづけるかどうかは、勝利するかどうかで決まった。戦争も、停戦も宣言された。そこには開戦と終戦の日があった。名称があったのである。

今日、ポストモダン時代(1980年代以降:訳注)の戦争はさほど明確ではない。敵は国民や国家として定義できない相手かもしれない。テロとの戦争における敵は誰なのか? 誰が誰と戦っているのか? 戦争が終わったと――終わるとすれば――いつわかるのか? これは単に国家という枠組みが消滅したという問題だけではない。

今日の戦争では、戦闘する人びとは国家や関連の団体によって雇われた公式の軍隊ですらないかもしれない。いまでは戦争はよく「代理人(サロゲイト)」という曖昧な言葉で括られている。防衛問題の専門家であるアンドレアス・クリーグとジャン゠マルク・リックリーはこれを「テロ組織、反体制グループ、越境活動、傭兵や私兵、および警備会社」と説明する。軍隊はしばしば移動砂の上で現地の「パートナー」と同盟を結び、実際の戦闘の大半を外注する。

21世紀の戦争は交戦国の領土だけで起こるものではない

戦場そのものも定義するのは簡単ではない。戦争はどこで生じているのか? いまでは、たとえ交戦国の領土が明確に限定できても、もはやそこに限定されない。移動や側位、遠隔通信を可能にする電子技術――誘導ミサイル、ドローン、ロボット、衛星、携帯電話、インターネット、ソーシャルメディア(SNS、ユーチューブなど:訳注)――が紛争を新たな場所で生じさせているのだ。

デイヴィッド・ルーニー『世界を変えた12の時計』(河出書房出版)
デイヴィッド・ルーニー『世界を変えた12の時計』(河出書房出版)

ドローンならば飛行できる高高度の空域のような場所、衛星が周回する宇宙空間そのもの、それにサイバースペースだ。サイバースペースはとりわけ、代理戦争の温床となる。誰が誰かを解き明かすことは、ほとんど不可能だからだ。

このことは実際には何を意味するのだろうか? 9/11の攻撃後のアメリカの「テロとの戦い」は、アフガニスタンとイラクで始められた戦争だと往々にして考えられているが、2001年以降の10年間におけるアメリカの軍事活動は、イラン、リビア、パキスタン、ソマリア、イエメン、メキシコを含む各地へも向けられた。

そのうえ、これらの戦場での戦いは、戦争を世界各地の市の中心街にもち込む単発的な都市部への攻撃を伴ったほか、もっと漠然としたサイバースペースの領域への攻撃も生じた。テロとの戦いは、地理学者のデレク・グレゴリーの言葉を借りれば、「どこでも戦争(エヴリウェア・ウォー)」だったのであり、いまもそうありつづける。

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