「対話」が不足すると、孤独感や幸福度に影響する

また、コミュニケーションの「質」の面も重要です。ここ数十年で、日本人の人付き合いは全体的に「形式化」してきているという調査があります(※3)

あっさりとしたコミュニケーションが好まれるようになってくる中で、中高年、特に男性は「自分のやりたいこと」を話さなくなります。

もう少し踏み込んだ言い方をすれば、中高年に不足しているのは他者との腹を割った「対話」です。仕事中の上司への報告や業務連絡、一方的な若手への説教や過去の自慢話……。そうした「会話」はなされていますが、それは「対話」ではありません。

ここで言う「対話」とは、話す相手を尊重しつつ、相互の信頼関係を築いていくようなコミュニケーションを指します。

相手に対して自分の考えや思いについて腹を割って話すことを心理学では「自己開示」と呼びますが、中高年層は、そうした自己開示をしなくなる傾向があるのです。

この「対話の欠如」という傾向は、家庭の中のコミュニケーションにも現れていることが先行研究で示されています。

このような「話さない」ということがなぜ「問題」になるのでしょうか。他人との交流やコミュニケーションの少なさは、その人の孤独感や健康状態、人生の幸福度など、様々な重要な状態に大きな影響を与えることがわかっています。

中高年全体にそうした傾向が見られるということは、「個性」のような個人差を超える問題です。

「変わってほしい」というメッセージだけが発せられる

「変われない」――「働かない」「帰らない」「話さない」……、こうしたことの問題点を自覚しながら、中高年自らが変わっていく。それができれば問題は氷解していくことでしょう。

しかし、中高年の多くにとって「変わる」ということは、「言うは易く行うは難し」の典型です。

今、中高年には「変われ」というメッセージがありとあらゆるところで突きつけられています。「VUCA」の時代といった言い方も定着しました。テクノロジーの進化はますます速くなり、持っているスキルや経験がだんだん役に立たなくなる時代。

ビジネス環境や自分の置かれた立場の変化、家族・親族にまつわるライフイベントなど、ミドル・シニアの働く環境は決して安定的ではありません。

小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)
小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)

さらに、変化を求める声は会社外からだけではなく、会社内部からも発せられます。経営変化と高齢化に伴う人件費の上昇を背景に、終身雇用の規範が裏切られ始め、「キャリア自律」の名のもとに、働き方やキャリア観の変化が強く求められるようになっています。

しかし、一方で、中高年を抱える企業の多くは、本音では彼ら・彼女らの働き方や仕事ぶりを「変えることは難しい」とみなしがちです。

だからこそ、企業からの積極的な施策やトレーニングの機会などは中高年には提供されないまま、ただただ「変わってほしい」という「メッセージ」が発せられるにとどまります。

そして、いよいよ差し迫ったタイミングにきて、退職勧奨や解雇といった「最後の手段」が行使されるのです。

*1 「サボる」というのはもともと「サボタージュ」の略。伝統的には、「集団になって、あえて働かない」という組織的・集団的な怠業は労働組合の基本戦術の一つだ。しかし労働組合が企業別に組織され、すでに戦後長らく協調路線をとり、組織率も下がり続けている日本の労働社会ではストライキを経験したことがある人はかなり少数になっている。いつの日からか、「サボる」はただのやる気のない個人的な怠業という意味しか持たなくなった。
*2 Ray Oldenburg(1999),“The Great Good Place”, MARLOWE & COMPANY New York
*3 『現代日本人の意識構造[第九版]』NHK放送文化研究所

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